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だってあの時は子どもで、今は大人になる手前の思春期。あの頃と捉え方も感じ方も違うのは誰だってわかることだ。それを引き合いに出されて「はい、そうですね」と答えるわけがない。
だけど。
私は、太郎の言葉の一部に納得してしまっていた。
あの日吐いた小さな嘘が
大きくなって帰ってきたのだ
私はあの時ちゃんと正直に言えばよかったんだ。
好きな人は一人もいない。
遊んでくれる友達を友達として好きなんだと。
恋とか、かっこいいだとかは、あの時は何もわからなかったからと。
「……いや」
小さな嘘が。
私の首を絞めていく。
掴みかけていた私の小さな幸せを奪っていく。
怖くなって震えていると「大丈夫、勇気を出せ。何があっても俺が守ってやるから」と太郎が私の手首を握ってきた。
怖い
怖い
私が嫌で震えているのがわからないのか
私が違うと何度も言っているのに何故伝わらないのか
一度も目の前の男に向かって好きだと言ったことがないのに、どうして好きだったことになっているのか
何かが切れる音がした。
私は急に、男という生物が怖くなった。
自分勝手で
事情も知らず自由気ままに動いて
女子同士のいざこざなんかなく楽しく遊べて
それなのに男だから力は強くて女の私は弱くて
私が欲しいもの全部持ってるくせにまだ欲そうとする欲深いこの生き物が。
心底嫌だと、私の心が叫んだ。
「いやああああ!」
今まで上げたことのないような声をあげて私は手を振り払った。
「由恵!」
彩音の声が背中で聞こえてきたけど、もう私には余裕なんてなかった。
――その日、私は初めて。
保健室のベッドに小さく丸くなって一日を過ごした。
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