嘘をついたから嘘が帰ってきた

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 この日のことは、この先、何年経っても忘れられない程のトラウマになった。  だけど、私は不登校にはならなかった。  それで不登校になったら負けた気がしたから。  だから、幼いながらも中学生ということを誇りに思っていた私は、憂鬱な気持ちが拭われるわけではなかったけど、それでもなんとか気持ちを必死に持ち直し、この翌日無理矢理登校した。  コトがコトなのと、一緒に居たのが噂好きの彩音だったから。  恐らくクラスメイトに知れ渡っている事だろう。早めに向き合わないと噂と言うものは尾ひれがついて変なことになってしまう。せめてそれだけは防ぎたい。教室の扉の前に立つと猶更憂鬱な気分になったが、私は意を決して扉を開けた。 「あ、きた! 待ってたよ!」  予想通り、一番に声をかけてきたのは彩音だった。  思えば、あの時彩音の言葉を無視して走ってそのまま保健室にこもって帰ってしまっていた。まずここは謝るべきだと瞬時に判断した私は「彩音、昨日は……」と口を開こうとした時だった。 「由恵、ごめん!」  先に彩音が謝ってきたのだ。  私が吃驚していると彩音は申し訳なさそうに眉を下げながらさらに言葉を続けた。 「ストーカーにあってたんだね! もう大丈夫、やっつけといたから!」  ――やっつけといた?  その意味を上手く汲み取れなかった私に「安心して、今ね」と彩音は凄く優しい声で教えてくれた。  私が大声を上げて去る姿を数人の生徒が見ていたらしい。何よりあそこはある程度の人は通る渡り廊下での出来事だったから、悲鳴を上げた私と、その私を捕まえようと追いかけた斎藤――追いかけられていたなんて知らなかったからゾッとしたけど――という状況が起こったことでどちらが被害者でどちらが加害者か、というのが噂も含めて見るに明らかだったらしく、「女を襲う奴」というレッテルを貼られた斎藤は虐められて今日不登校らしい。  まさかの怒涛の展開に私が呆気にとられていると、クラスメイトのヤンチャな男子たち――髪を明るく染めたり、制服をだらしなく着崩した男子たちだ――が私たちの傍に寄り「正義の鉄槌を下しといたからな!」と誇らしげに笑った。 「ただアイツ、全部由恵のせいだと思っているみたいでさ。呪いの手紙を朝、由恵の下駄箱に入れに来たの。私が大声出して追っ払ってやったけどまたくるかもしれないから、何かあったらいつでも頼っていいからね」
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