嘘をついたから嘘が帰ってきた

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 彩音はすごくすごく優しい声色でそう言ってくれた。  その目の奥は『面白いものを見つけた』『イレギュラーのことが起こった』と言わんばかりに輝いているのがよくわかったけど、私は何も気づいていないふりをして「ありがとう」と返すしかなかった。  果たして、彩音たちの行動があってるのか、と問われたら私はわからない。  ただ、私が太郎によって傷つけられたのは確かだった。  でも、それに、部外者が無駄に首を突っ込んでさらに人を傷つけるのは違う……とは思うけど、悲劇のヒロイン、というポジションを獲得することで私の幸せが取り戻せた気がしてしまったのだ。  私は何も悪くないのだから、堂々と登校していい。  皆が私を守るためにと優しくしてくれるから甘えたらいい。  そう自分に言い聞かせて登校を続けていた、ある日。  流石にずっと哀れみの目で見られ続けるのが億劫になり、人が少ない時間帯を選んであえて遅めのギリギリに登校した日だった。面白がって私の下駄箱を覗いている人がいた。全員男子だったから最初はその中に斎藤がいるかもしれないと凍り付いたが、違った。  全員知らない顔で、一人だけ知っている顔だった。  気づいた私は指先の感覚がなくなるぐらい全身が冷えるのを感じた。  ――みんな一緒だった  ――男の根本は変わらない  私に気づいた男子たちはニタニタ笑いを浮かべながら何かを見せた。黒い便箋だ。どこか誇らしげにひらひらと振って見せてから、彼らはそれを持って去っていく。  多分、斎藤の呪いの手紙なのだろう。  それを持ち出してやったんだぞ、てアピールだったんだと思う。  本当なら有難がるべきなんだろう。  だけど、だけど。  ニタニタ笑う必要があっただろうか。  正義のヒーロー気取りの優越感に勝手に浸って私に感謝を押し付ける必要が、あるのだろうか。 「……嫌い」  私は傷ついた心を撫でるように呟く。  涙が零れそうだけど頑張って堪えた。  こんなことで傷ついて泣きたくなかったから。  ただ、勝手に流れ出てくるのを止めるのはやっぱり無理だった。  ――あの中に、碧人がいた。 「嫌い……」  ……  多分、好きだった。  最初は嘘だったけど、途中から、優しさとか、無邪気さとかに惹かれて、実はかっこいい男子だったと気付いて。  皆と同じように淡い恋心を抱いていたんだと思う。だから今度こそ嘘じゃなかった。着替えている時に告げた言葉は本心だった。そう思いたくなくて頑張って自分に向かって否定していたけれど、今更気づいた私の心は止まらない。  他の男子よりは、彼を目で追っていた。  だから後ろ姿だろうが、今面白がって私の下駄箱を覗いたのが彼だとわかった。  優越感に浸ってニタニタしている男たちの仲間だとわかった。  優しい、というにはあまり気持ちのいい態度じゃないあの男たちの仲間だと。  恋すべきでない人だとわかってホッとすると同時に、ぽっかりと穴が空いていくのがわかる。  私は本当に見る目がない。  そう……言わなくてよかった。  小学校の時みたいに、私の口からじゃなく他の誰かから伝えられた状態でよかったじゃないか。 「やだ……」  なのに、どうして。  こんなにしんどいんだろうね。
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