4人が本棚に入れています
本棚に追加
大学生
恋愛を抜けば充実した学生生活を過ごした高校時代。ただ、心が空っぽになり果てた私は大学生になった頃、恋だの愛だのはもうどうでもよくなっていた。自分の好きなように生きていければもうそれでいいと。
そうして、気づけば一度も彼氏がいたことがないまま私は二十歳になっていた。
かなり、拗らせていたんだろうな。
告白される、なんてことは夢のまた夢の世界だともうあきらめきっていた。どうせ私を好きになる人なんかいないと諦めきっていた。ただ、折角若いんだから、という周りからの声もあって遊びに行くことは何度かあった。その中で一番多かったのが、高校で部活が一緒だった友達、牧本唯奈に誘われてたくさんの人が集うボーリング大会だ。
大人が子どものようにはしゃぐ会、なんて名前だった気がする。
凄く面白いネーミングセンスの会だ、と思ったのと、ボーリング代が安く済むのと、その後の食事会も女性は安めでいいよってものだったのと、唯奈が「安全は保障する」と言ってくれたから頻繁に通っていた。そこで知り合ったのが、既に彼女持ちの信楽幸だった。
彼はとても気さくで、女好きだった。
女好き、という印象を私が抱いたのはただの偏見かもしれないけれど、彼は初対面の女子でも名前を呼び捨てするのだ。
だから初対面で名前を紹介した時「由恵だな。よろしく」と強引に握手をされた時は驚いた。そんなことをされると私も「幸」と呼ぶしかなく、まぁでも彼女がいるし面白い人だし逆に友達としていい関係を保てるかもしれない、と思いなんだかんだそのまま仲良くなっていた。他にも唯奈からは色んな人を紹介された。皆気さくでいい人たちばかりで、唯奈が「由恵っていうの」と紹介するから皆に「由恵」だの「由恵ちゃん」と呼ばれていたので、名前を呼ばれる抵抗というのは気づけばなくなっていた。
最初は男性の比率が多くてかなり戸惑ったけれど、唯奈と一緒だったこともあって何度か回数を重ねていくうちに慣れていき純粋に遊べるようになっていた。大人が子どものようにはしゃぐ会、というだけあって皆ただただ遊ぶのに夢中だったこともあった。色んな年齢層がいたから、色んな世界を一気に見れたこともあって刺激的で楽しい時間ばかりだった。だから油断して通い続けた、結果。
やっぱり、恋愛がない、なんてことはなかった。
「由恵と付き合ってみたい」
皆とわいわい飲み会をした帰り道、送るよ、と言ってくれた3つ年上の人からそう言われた。
私にとって初めての告白だった。
嬉しかった。
愛されていいんだと、愉悦に浸れた。
だからそれを受けようと思った私だったのだけれど――何故か妙に身体が震えて出来なかった。
何も答えられない私に「ねぇ、答えは?」と彼が至近距離に迫ってきた。
手首をとられ、腰を掬い取られ、抱き寄せられる。年上だから大胆なのか。それとも最初の私の反応で押せばいけると思ったのか。私はひたすらに怖くて「あの、あの」と断りを告げようとするが中々言葉が出てこなかった。
最初のコメントを投稿しよう!