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「こんなに震えちゃって、可愛い」
可愛い?
私が?
いやそれよりも
怖がっているとわかってもらえてない?
「返事を聞かせて」
耳元に息を吹きかけるように尋ねられて私は凍り付く。
怖い、怖い
異性、というのを肌で感じて全身が嫌だと叫んでいた。
斎藤のことを思い出した私は目の前がバチっと爆ぜるような衝撃と、視界が開けるような感覚に陥った。
――もう、好きじゃない人に好きだというのは嫌だ。
「あの、やめ――」
「お兄さん何してんの?」
抵抗しようと私が身を捩った時だった。
私の隣に幸が立っていた。
「おいおい邪魔すんなよ幸」
「ん-、良い感じだったら邪魔する気はなかったんスけどねー……由恵、怖がってるんで」
幸の声が低くなる。
迫力のある声に私はビクっとした。けれど不思議と怖い、というよりは頼もしい、という気持ちが大きかったように思う。ガラリと普段の雰囲気と変わった幸に何か危険を感じたのか、私を拘束していた手が離れた。
「ごめんごめん、ちょっとからかっただけだって。男に慣れてない子をからかいたかったんだよ。ごめんね。じゃあこの辺で失礼」
そう言ってその人は去っていった。
私は暫く呆然としていたように思う。
すると幸が何かを私の頭の上に乗せた。
ヘルメットだ。
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