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「俺に寄りかかってくれていいから」
そう言って恭哉さんは私の肩を抱いて歩かせてくれた。私のバッグも恭哉さんが持っていた。どこまでも紳士的な人だ、と思いながら私は恭哉さんに甘えていた。
――そうして少し歩きながら、私は数分だけ転寝してあまりの眩しさにハッと目覚めた
何かが、おかしい
甘ったるいような、背中をぞわぞわとさせるような気味の悪い雰囲気を肌で感じ取った私は目が覚めて恭哉さんから離れた。
そして今いる場所を知る。
眩しかった理由も。
「あの、ここって」
私の声は震えていた。
逃げたい。
でも立っているのもやっとなくらいクラクラする。
でもこのままじゃやばい。
逃げなきゃ、逃げなきゃ
私の様子で察したのだろう。恭哉さんは「あらー、起きちゃったか」と残念そうにお茶目に肩を竦めたが、その目はすぐに獲物を狩るような鋭さを帯びた。
「もうここまで来たんだから今更逃げるのはナシ」
手首を引かれ「いや」と私は必死に振り払う。私も学生時代はずっと運動部をしていた身。そこそこの力はあった。
「チッ、もう少し強めの入れた方がよかったか」と恭哉さんが呟いた。そう言われ、その言葉から何か飲み物に入れられたんだと察した私は全身の血の気がサーーーとひいていくのを感じた。
逃げたい。
怖い、嫌だ。
誰か、誰か
助けて――
涙が溢れるせいで力が入らない。
泣いているせいで呼吸が上手くできず逃げれない。走れない、歩けない、振りほどけない。運動神経に自信があるのに上手く動けない。強引に手首を引っ張られるがまま、ずるずると行きたくない建物へ引っ張られていく。その時脳裏に浮かんだのが幸で、私はいつまでも無意味な恋ばかりするのだろうかと絶望の味が口に広がるのを感じた。
――もう、いいや
諦めて私は私を捨てよう。
そう、心に決めた時だった。
「それ、俺のなんで」
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