大学生2

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 勢いよく肩をひかれた。  引っ張られた身体が、シトラスの香りがする胸元に引き寄せられる。  私は信じられない思いで顔を上げた。  幸だった。  どうして、なんで、という疑問が脳裏を横切りまくる中、幸は「じゃ」と鋭く告げて恭哉さんから離れた。恭哉さんが何か言っているのが聞こえたけれど、幸が一瞬振り返ったことで黙った。幸から怒りのような何かが伝わってきたから、きっと睨みつけたんだろう。いつも優しい幸が怒ると怖いから、恭哉さんはその気迫に圧倒されたのだと思う。足早な幸についていくのは大変だったけど、私の手首を引いてくれる温かさから離れたくなくて私は必死についていった。  何より恭哉さんから少しでも遠くに離れたかったから。  その道中、幸は口早に「ごめん」と言いながら私に事情を話してくれた。 「彼女が別れる前に最後に一緒にいきたいと言ってきたんだ。アイツあんな面倒くさい奴だとは思わなかった。どうせ他の子を好きになったから別れたいんでしょうとか言いやがって。くそ、まさかバレたとは思わなかったんだよ。だから見せつけるようにボーリング大会に一緒に同行してくれたら別れてあげるとか言いやがって、俺はそれに大人しく従っちまったってわけ」  それを聞きながらあの時の幸の表情を私は思い出した。  そういえば、何だか苦虫を噛み潰したような顔をしていたようには確かにあった。 「ただ最後に俺、皆に別れましたーって公言したんだよ。お前、その場にいなかっただろ。なんか数人足りなかったからな。まさか誰かに連れていかれるとは思わなかったんだよ。あーもう本当俺ってバカ。ちゃんとお前を見ておけばよかった。ちなみに彼女は他の男とさっさとどっかいったよ。もう俺踏んだり蹴ったり。間に合わなかったら今日の俺は枕をびちょびちょにするところだったぜ。はー、危なかった。まぁでも悪いことばかりじゃなかったけどな。俺の元カノである誰かさんがフラフラのお前を連れ去る姿を見て俺に知らせてくれたおかげで間に合ったんだからよ。あんまり感謝はしたくねーけど感謝だな。はぁ」  その後に「まぁでも多分俺浮気されてたんだろうな。だって見た場所が見た場所じゃねぇか。果たしておれの元カノさんは誰といたんですかってね。あーもうなんか色々ムカつく」とため息をつき私の方を向いた。そこで「すまん、一気にしゃべり過ぎた……てかお前滅茶苦茶フラフラじゃねぇか。とりあえず少し休もうか」といつしか訪れたカラオケ店へと引っ張ってくれた。  幸だから2人きりになる事に不安感はなかった。  まだ恐怖で震えてたけど、部屋に入って「ここならいっぱい泣いても平気」と言われた途端。  私の中で何かがぷっつりときれて声を上げて泣いた。
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