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子どものように。
赤子のように。
もう大人なのに、大人でいることを忘れたかのように私は泣いた。
怖かった
もう男なんて嫌だと何度も心の中で叫んだ。
そして私は言った。
「私を助けてくれたのはありがたいけどアンタのじゃない。私は私だ」
幸にとってはまさかの言葉だったのだろう。そりゃそうだと笑って返され、「だけど俺にも少し欲しい。くれないか?」と顔を覗きこまれ心臓が爆発しそうになった。
別の意味で泣きそうになる私に彼は優しい声をかけてくれる。
頭を撫でてくれる。
好きだよって目一杯の想いを込めて。
だけど素直に受け入れられなくて私はしかめっ面ばかりを向けてしまう。
本当はその言葉を受け入れたかった。信じたかった。
でもそれは私には難しいこと過ぎた。
今までの過去が走馬灯に過って私の喉の奥を苦しめる。
まるで幸せになってはいけないんだとこの先の人生の首を絞めるように。だけどそんな私に「それでも」と幸は言った。今まで見た中で誰よりも暖かくて優しい瞳で私を見つめて。
「お前は本当、素直で純粋なんだな。可愛すぎる」
「知ってるか? 俺が今まで出会った中でお前が一番嘘偽りなく気持ちをぶつけてくれるんだ。嘘ばっかりの女が多い中でだぜ? それって凄いことなんだ。一応言うけど俺の経験値ナメんなよ? ……だからこそ、俺はお前に惹かれた。何度でも言う。お前が俺を受け入れてくれるまで、何度でも」
「大好きだ、由恵。俺の彼女になってくれませんか」
ありのままの私を受け入れてくれて、幸はたくさんの言葉を連ねてそう言ってくれた。
大きすぎる愛を私に向けて。
私には勿体ないぐらいの大きな大きな愛を。
本当に、好きになっていいの――?
温かいものが胸に溢れて涙が止まらなくなる。
これが、好きが溢れて止まらなくなることなんだ、と初めて知った私は戸惑いの中で泣きじゃくり、私の頬に触れる大きな手にそっと自分の手を重ねる。
いいの? 好きになっていいの?
今まで嘘をつきまくってきたのに。
偽の私で生きてきたのに。
愛されない私だったのに。
こんな私を。
こんな私が。
恋をしてもいいの?
私は気が付けば言葉を口にしていた。一度も誰かに向けていったことのない魔法の言葉を。
「幸が好き」
生まれて初めて、誰かに言った好き。
自分の口で。自分の好きな人へ。
もう誰かの口からじゃない。嘘で固めた言葉じゃない。心からの本心として、私は嘘偽りない気持ちを幸に告げた。
本当の好きを知った私が、初めてその言葉を口にした瞬間だった。
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