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「なぁ、保健室行った方がよくない?」
「あ、彰くん……!」
腕を抑える私に麗が興奮し激高している所に彰がきた。ドッチボールをよく一緒にしてくれる男子だ。彰を見て頬を仄かに染めてしおらしくなる麗の様子を見、流石に鈍感すぎる私でも気が付いた。
麗は彰を好きなのだ。
だから一緒に遊べている私が羨ましくて。
それで好きな子は……て、聞いてきたんだ。
でも今更気づいたところで遅い。私の発言は取り消せない。
『彰が好きだから教えてって……』
麗が急いで私が止めに来たことも、周りの女の子たちが青ざめたり頬を染めている理由も急にすべて分かった私の表情は……どんな顔だったんだろう。
「めっちゃ血が出てる。保健室行こう」
彰が私の手首をつかんだ。
皆の目の前で。
彰を好いている女の子たちの目の前で。
「うん、ありがとう。ひとりで行けるから、だから」
私は彰の手を急いで振り払う。
多分失礼だった。
でも考えがごちゃごちゃになってきていた私は麗を見る。
「私は絆創膏貼ればいいだけ。だけど麗はどこか打ってて歩けないかもしれない。だから、麗をお願い」
「あー、マジか。わかった」
彰はすぐに私の言葉に応えてくれた。
彼は優しい。
妹たちがいるからか面倒見がいい彼はケガをした人とか弱っている人に凄く優しい。
彰は男子の中でもそういう優しい性格の持ち主だと知っている私は、だからこそ、そう言った。同時に、きっとその優しい様子が女の子たちの心を奪っているのだろうというのも察せて、よくケガをする私が彰に介抱されているのを見て麗たちは嫉妬したのだろうとなんとなくわかってきていた。
麗の方をふと見ると、可愛らしい顔が信じられないって様子で私を凝視していた。それにニッコリ笑って返したら、彰を見て、私を見て、申し訳なさそうに眉を下げて「ごめんね……」と言った。
「いいよ」
私はそう答えて保健室に行った。
喧嘩両成敗ってわけじゃないけど、お互い謝ったのだからこれで今回のいざこざは終わりとなるだろう。きっと、好きな人は誰だとか聞かれることも減るはずだ。
そう思うとちょっと浮足立っていた私は多分鼻歌交じりだったんじゃないかな。
……だけど。
保健室に行って先生の治療を受け終わった私は。
麗の『ごめんね』の本当の意味を知った。
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