中学生

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「もー、早く教えてよ! 本当はいるんでしょ!」  そう言われたのは何度も聞かれた言葉を躱して躱し続けて半年経った頃だった。  正直その時の状況は、麗の時のようなデジャヴを感じた。  聞いてきたのは同じクラスでそこそこ関わりのあった子で、クラスの女子の中でも一際恋愛に興味のある子。ただ、声がとてもとても大きいので、教室にいる人たちに丸聞こえ。時間帯は体育の授業前の着替え時間。2クラス合同で着替えるから一つの教室に2クラスの女子が全員いる、という状態だ。その中でこんな『恋愛話をしますよ!』みたいな号令を聞いて興味を持たない人なんかいるわけがない。この思春期真っ盛りの好奇心旺盛かつ恋愛大好物女子たちが「なになに?」「聞きたーい!」と群がるのは必然と言えた。 「私大体の人の好きな人知ってるけどさ、由恵(ゆえ)だけ知らないのよ!」  名前を言われて私のことだとわかると余計に皆は興味を持つ。これが嫌で仕方がなかったのに結局こういったことに巻き込まれる謎の不運を恨めしく思った。  ――沖本(おきもと)由恵、それが私の名前だ。  名前だけはパッと見が女の子らしくて可愛らしいイメージだからか、恋愛をしていないわけがないと思われているらしい。  もう根拠から謎過ぎる。  だけどこの中学校で3年間過ごさなければならない私はこの場を上手く切り抜けなければならない。  一か八かと私は「えー、でも私皆の好きな人知らないし、このまま私だけ言うなんて不公平じゃん? 恥ずかしいし」と返した。恋愛話を好きとはいえ、そこまで親しくない人には話さないのが人間の真理というものだ。最もなことを言ったことでこのまま諦めてくれないかな、という淡い期待をしての発言だったのだが、それはあっさり砕かれてしまった。 「私は結賀(ゆいが)君。のどが渇いたって言ったら飲んでたペットボトル譲ってくれてキュンってしちゃった」 「佐久(さく)君が好き。今ラブレターの返事待ちでね、玉砕したら慰めて欲しいな」 「私は(ひじり)。幼馴染だけど今の状態が心地いいからまだ告白する気はないかな。だけど横取りされそうだったら思い切るよ」  皆口々に答えていく。我先にと言わんばかりに。先に言った方がライバルが少なくて済むと思っているらしいが、それは本当に心からの好きなんだろうかと疑問に思ってしまう程軽々しく口にする女子たちに私は圧倒されてしまっていた。多分、ポカンと口を開けて呆然としていたと思う。  だって好きだのどうのって口にするだけで恥ずかしい事柄で、人に知られるのはあまり気持ちが良くないものだと小学校の時の麗の様子を見て思っていたからだ。あの時一瞬でも抱いていた罪悪感が木っ端微塵に消えていく感じがして、私は何とも言えない感情に胸中でしかめっ面をしていたと思う。  そしてこうなってしまうと答えないわけにはいかなかった。  最初に私に尋ねてきた可愛らしい黒髪ストレートが似合う同じクラスメイトの彩音(あやね)の「いいよね!」と言わんばかりのキラキラ輝く表情に私は根負けした。もう仕方がない、と私は皆の告白を聞きながら頭の中で閃いた答えを告げた。 「まだ、碧人が好きなんだ」 ――私は、ここでもまた嘘を重ねる
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