泣き声の消えた日

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 パンデミックは更に全国規模に拡大した。関東や関西、九州にまで及んだ。  未だに専門家や医師会では、ウィルスの根源や対処法など手探りの状況で、打開策は見つからなかった。  世界的権威であるウィルスの研究者や機関などから意見を募って、分析を試みるも、有効な策は相変わらず、見つからず、政府はお手上げの状況だった。  早急にワクチンの開発も進められたが、副作用のことを考えると、容易に厚労省は認可せず、様子見の姿勢をとることが予想された。  だから、赤ん坊どうしの接触を断つことが、より有効な策となった。  どうしても、外に連れ出したいときは、赤ん坊にマスクをさせるようにとお達しがあったが、赤ん坊にマスクをさせると、呼吸法もままならない赤ん坊が、窒息してしまう恐れがあった。  こうして、街中では、ベビーカーを押して歩いている母親の姿が消えてしまった。  真由美は翔太を公園デビューさせるため、団地の近くの公園広場まで、ベビーカーを押して現れた。  公園内には母親たちの姿はまばらだった。やはり、感染を恐れて外出を自粛しているのだろう。確かに言語能力が鈍ってしまう恐れがあるから、連れ出さないのは分かるが、それほど重症化しなければ、外に出すことは問題ないのではないかとさえ思えた。  だが、我が子の学力を重視する母親にとっては、わざわざ、我が子を危険に晒すことはしないだろう。真由美は翔太が元気に育ってくれれば、多少、出来が悪くても構わなかった。  何よりも、泣き声を発さないことが、真由美には精神衛生上、よかったので、感染はむしろ、歓迎すべきこととなった。
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