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「おい、最近、翔太が夜泣きしなくなったな」
夫が帰宅して、食卓に着くなり切り出した。
「いいことじゃない。夜も安眠を妨害されないし。あなたもわたしも、目を覚まさず、朝までぐっすり眠れるでしょう」
「そんなことは、どうでもいい。翔太の将来を考えたら、感染させない方がいいだろう」
真由美は一瞬、頭に血が上りそうになった。勝手すぎる。この人は子育てがどれだけ大変か、わかっていない。
「感染したって、ちょっと話すのが遅れるだけでしょう?」
「バカか。おまえは?言葉が遅くなるってことは学習する時間が人よりも遅くなるってことだ。受験する時には大きく差をつけられてしまうだろう」
「翔太はふつうでいいじゃない」
「バカ!ふつうじゃなくなるだろう。俺は翔太には十分な学力をつけさせたいんだ」
教育熱心なことは結構だが、もう少し、気を遣ってほしいと真由美は思った。
翔太は感染していた。3日ほど泣かなくなったので、小児科を受診すると、陽性だと判明した。
医師は複雑な表情をした。赤ん坊が感染したことで落胆する母親、そして、歓喜する母親と、二つの側面を見せるからだ。もちろん、真由美は後者の方だったが、医師の前では、しおらしく振る舞った。
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