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それでも、もし、重症化したら、翔太は一生、言葉を覚えられずに終わってしまうんではないかと、不安になる。
でも、その反面、子どもが泣かないことが、こんなに気が楽なのかと嬉しくなってしまう。
しばらくして、サイレントベビーに効く薬が開発され、間もなく認可が下り、その間にワクチンも開発された。
薬は粉状のもので、ミルクに混ぜて飲ます。効果は一週間から二週間後に顕れる。
病院で処方されるため、毎日、病院では長蛇の列ができるほどになった。
「おい、薬を手に入れてきた。早速、飲まそう」
夫が帰宅するなり、真由美に薬を手渡した。
「え?何、これ?」
「だから、泣き声が復活する薬だよ。午前中、半休を使って並んでもらってきた。ついでに、ワクチン接種の予約もした」
真由美は愕然とした。
この薬を飲ませれば、静かな時間がなくなってしまう。また、夜泣きで度々、起こされる日々が始まる。
「どうして、そんなバカなこと?」
夫は気色ばむ。
「バカなこと?おまえ、正気か。翔太はウィルスにかかってるんだぞ!ウィルスにかかってたら薬を飲ます。ワクチンを接種させる。当たり前だろう」
「わたしたち、ようやく静かに暮らせる時間を得たのに、なんで余計なことするの?」
夫は真由美の剣幕にたじろいだ。結婚してから真由美は夫に従順だった。口答えすらしたことがなかった。
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