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四人程が席に着けそうなテーブルに、二人分の食事。
ルネリタは、緊張しながらベリエスの前に座って用意された食事を口にしていた。
ヴァレンツや使用人達はもう居らず、屋敷はすっかり静かになっていた。
食事の準備等も済んでいるし、二人だけで過ごしたいと云うベリエスの強い希望だ。
が、広い屋敷で好きな相手と二人っきりで一夜を過ごすと自覚してしまったルネリタ。
食事がうまく喉を通っていかないし、動きもぎこちない。ベリエスとどう話したらいいかもわからない。
頬を赤く染めながら静まらない心音に不安を抱く、不安定な状況に陥っていた。
(や、やっぱり……食事を食べたら帰った方が良いんじゃ……)
「ルネリタ」
彼から嫌われてしまいそうな事を考えていたからか、名前を呼ばれただけで肩が跳ねた。
呼ばれた方を見ると、彼は困った様に笑っていた。彼から紡がれた言葉は、予想していなかったもので。
「悪いな」
「え?」
「普段、ヴァレンツとはたまに食事をするくらいで……誰かと食事するのは慣れていないんだ。話があると言いながら、どう切り出していいかもわからなくてな……緊張させてすまない」
「ち、違うっ」
緊張しているのは違わなくはない。しかし、ベリエスに気を使わせてしまった事を反省し、慌てて首を横に振る。
「ベリエスは何も悪くないっ。その……」
好きだとは、この先も告げるつもりはない。
彼を傷付けない理由を、頭の中で素早く考えた。
「私も、家族以外と料理を食べるのは初めてで……友人の家に泊まるのも初めてだから……」
濁した感じにはなったけれど嘘にはならない様に話してみた。
すると、ベリエスはふっと柔らかい笑みを溢した。
「本当に似ているな」
「へ? 誰かと似てる……?」
自分みたいな知り合いが居るのか。興味を示して、首を傾げながら尋ねる。
照れているみたいに口許に手を当てて、目を逸らしながら彼は白状した。
「俺に似てると思っていたんだ、ずっと」
「え……」
(性別も違うし、顔も全然似てないけど……どこが似てるんだろ)
恐れ多さで顔をしかめる前に、彼は理由を話してくれた。
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