風になりたい

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風になりたい

北から南に流れる川沿いの道は、いつも北風が吹いている。 今日の晩ごはんは何にしようかと思案しながら南に向かって歩いている人の耳に、「カレーがいいな」なんて囁いて、足取りを軽くしてくれる。 今の仕事を辞めたいなと思いながら北に向かって歩いている人の額に、「あの先輩はただの電柱だ」と思い込ませて、明日も出勤しようと奮い立たせてくれる。 ぼんやり立ち止まって、喧嘩ばっかりしてしまう恋人との将来が見えない人の目に、「恋人に期待し過ぎると空気が重くなるよ」と潤んだ瞳を乾かして、今から期待は自分にしようと、お気に入りのカフェに足を向かせてくれる。 そんな北風になりたいなと、堤防に座っていた僕を家路に誘ってくれた。
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