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それが、一時間くらい前の話だ。
誘われるがまま名前も知らない男性とホテルへ向かった。途中「どうして援助交際を?」と問われ、僕は咄嗟に生活費の為だと嘘を吐いた。それが一番無難で、当たり障りない答えだと思ったのだ。
「お前がタチでいいか」
部屋に入るなりそう尋ねられ、僕は首を傾げながらあいまいに頷いた。正直そういったことには疎くて、なんでこんなことしてるんだろう、と改めて疑問に思う。
それから順番にシャワーを浴びて、ベッドへ誘われた。優しいささやきと共に丁寧にキスをされた後、孔の解し方を教わっていく。何もかも初めてと明かした僕に驚きながらも、面倒臭そうな素振りもなく色々なことを教えてくれる。
想像以上の優しさに、僕は男性に夢中になっていた。
「お前……今から名前も知らないオジサンに童貞奪われるんだぞ。もっと抵抗したり、泣いたりしねえのかよ」
僕があまりにも素直に現状を受け入れているのが不思議なようだ。なんと答えたらいいのか分からなかった僕は、口をぎゅっと噤んだまま首を横に振った。
「……家帰って後悔してもしらねーからな」
男性が慣れた手付きで僕の性器にスキンを被せていく様子を、指の隙間から覗き見る。反り立つ性器を見つめ、自分の身体じゃないみたいだと、他人事のように考えていた。
「しっかり見ておけよ」
男性の低音が、少し高い位置から降ってくる。
仰向けの僕の上に膝立ちになって、自身の尻たぶを片手でぐっと広げていく。もう片方の大きな手は、僕の性器に添えられて。その先端が、ひたり、と入り口に当てられた。
そしてゆっくりと男性の身体が沈んで、僕の性器が彼の窄まりに飲み込まれていく。
その光景から、僕は目を離すことが出来なかった……。
帰宅したのは、二十二時半過ぎだったと思う。玄関を開けると、血相を変えた両親に詰め寄られた。
「あんた、どこ行ってたの!」
「塾から電話があったぞ!」
あと五分帰ってくるのが遅かったら、警察に電話するところだった。そう話す両親に、僕は「実は…」と俯きながら理由を話す。
「塾に向かう途中で、友達が不良に絡まれてて……それを助けていたんだ」
……自分を守るために、嘘をつく。子どもの頃からの、僕の悪い癖だ。
偽りの経緯を話すと、怒っていた両親は少し落ち着きを取り戻していた。
「事情は分かった。でも、スマホで連絡を取れただろう」
「充電、切れちゃってて。ごめんなさい」
頭を下げて謝罪をすると、父は「全く」とため息を吐きながらリビングへ戻っていった。母も「心配させないでちょうだい」と額を押さえながら父の後について行く。
「ごはんの前にお風呂に入ってきなさい」
「うん、わかった」
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