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診察室に入ると、担当医に「不調はない?」と問われ、僕は頷く。
「茉莉登くん、その後プレイはまだ……?」
「……してないです」
「そっか。まだコンタクトを外すのは怖いかな?」
僕は口を噤んだまま頷いた。
グレアのコントロールは出来る。しかしパートナーのいない今、いつグレアが暴走してしまうか分からないから、コンタクトは外せない。コンタクトに頼った生活をしているが、現状を変えたいという思いはなかった。
「DomはSubよりも不調は出にくいけれど、結局、欲が満たされないと体によくないから。適度にプレイが出来るような相手ができるといいね」
担当医の言うことは最もだ。だけどパートナーなんて、そう簡単にできるもんじゃない。
あーあ、尾張さんがSubだったらよかったのに。そんな叶わぬ望みを抱きながら、僕は診察室を後にしたのだった。
「お前、随分と俺好みの男になったな」
何回目の援助交際か忘れたけれど、タバコを吸っていた尾張さんが僕を見てそう言った。
尾張さんが僕に色々教え込んでいるのだから、キスもセックスも尾張さんの好みになるのは当然だ。それでも『俺好みの男』という言葉が嬉しくて、僕は「そうでしょ」と彼の腕に抱き着く。
「尾張さんが悦んでくれるところ、全部覚えてますもん。首筋とか乳首とか、尾骨とか」
奥も好きですよねって言ったら、尾張さんは「揶揄うんじゃない」と言って顔を赤く染めていた。
尾張さんは、大人の男性なのに可愛い。
こんな可愛い彼を、他の誰にもとられたくない。最近は強くそう思うようになった。
僕のハジメテをもらってくれた。
僕を好きだと言ってくれた。
僕に愛を教えてくれた。
僕は尾張さんさえ居れば、他に何もいらない。
だけど、僕らの関係はお金で繋がっているだけ。
恋人以上だけど、恋人未満の関係だ。
……尾張さんの恋人になりたい。
だけどそんな想いは口にできないまま……僕は尾張さんと『援助交際』を続けたのだった。
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