【2】Side:N

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【2】Side:N

 その日突然、俺は恋人にフラれた。  二十七歳の誕生日を迎えた翌日のことだった。  電話越しに告げられた別れを理解するのに、数秒はかかったと思う。相手は男だが、俺の初めてのパートナーでもあり、交際歴は長かった。それがこんなにもあっさり終わってしまうなんて。  理由を尋ねると、そいつは「新しい女ができたから」と何も悪びれることなく答えた。 「そんなの勝手すぎだろ……」 「だいじょーぶ、お前のケツすっげー気持ちいいし、すぐ次の相手見つかるって。Subとしては全く可愛げなかったけどな!」  自分勝手なことばかりを言い、最後は逃げるように電話を切られ、不通音がツーツーと響いた。  ーー『Subとしては全く可愛げなかったけどな』  最後のその言葉が、ぐちゃり、と俺の心を抉る。  ……心当たりはあった。  俺は、自分のSub性を未だ受け入れることができず……コマンドを拒否してしまう。  コマンドやグレアが効かないわけではない。しかし、コマンドに従っても、グレアを受けても、心地よさを感じることが出来ないのである。  コマンドやグレアが拒否されるなんて、Domにとってはプライドを踏みにじられているようなもの。  だから俺は……出来損ないのSubなのだ。  自宅の最寄り駅につくまでずっと、傷心に浸ってしまった。だけど思い返してみれば、あいつには振り回されてばかりだ。  もう一層のこと、手っ取り早く誰かとセックスして忘れてしまおう。  そう考えながら駅前を歩いていた時、ある少年の姿が視界に写った。さらっとした黒髪ですっきりとした顔立ちの少年は、思いつめたような表情で地面を見つめている。  ぼんやりとした視線からはグレアなどは感じなかったものの……彼を見た瞬間、身体を駆け巡る何かに襲われた。  ーーそれが、茉莉登との出会いだ。  茉莉登は十八歳。生活費のために援助交際の相手を探していたと言う。当時の俺にとっては、都合のいい相手だった。  その日、俺は彼の童貞を奪った。彼は合意だと言ってくれたが、こんな大人に迫られて強姦的ではなかっただろうかと不安になる。  しかし、どうやら俺は気に入られたみたいで、帰り際に「また会ってくれますか」と可愛いことを言ってくれたのだった。  そうして俺と茉莉登との『援助交際』がはじまった。  茉莉登は、俺の傷ついた心を癒してくれる。何度か身体を重ねていくうちに、あのクズな元恋人のことなんて頭の中から消え去っていた。 それに加え、何も知らない子供に俺の好みを教え込んでいくのは楽しかった。気持ちいいこと、イケナイこと、全部素直にインプットしていく。  まるで真っ白なキャンバスを絵具で汚していくような背徳感があったが、それでも笑顔で「気持ちよかったです」と頬を染める茉莉登に、俺は心を奪われていったのだ。
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