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「はい、おまたせ」
その言葉と手首の拘束が緩まったのは、ほぼ同時だった。作業開始から20分。カチャ、と金属音が聞こえ、拘束が解かれる。ホッとするのも束の間、冷たい風が吹きつけてきて、全身がぶるっと震えた。
駄目だ、立ち上がれない。
ゾクゾクと湧きあがる尿意を抑えようと、ぎゅうっと太腿に力を込める。少しでも動いたら漏らしてしまいそうだ。
動けない俺を心配したのか、鍵師が「立てる?」と声を掛けてくる。しかし追い詰められていた俺は顔を上げないまま答えた。
「大丈夫なんで帰ってください、ありがとうございました、本当に帰ってもらって大丈夫です!」
「……全く大丈夫そうに見えないけど。もしかして、トイレ我慢してる?」
図星をつかれ、何も言い返せなかった。「漏らしそうだから帰ってください」なんて、恥ずかしくて言えるわけない。でも、鍵師は察してくれているようだった。
「ちょっと、失礼するね」
そう言って、大きな手が膝裏と背中を抱き、俺をかかえ上げる。お姫様抱っこのような横抱きに思わず「わあっ?!」と素っ頓狂な声が出た。
「ビックリさせてごめん、お風呂場まで運ぶだけだから」
昔から小柄でひょろひょろとした体型である自覚はあったけど、あまりにも軽々しく持ち上げられてしまい驚いた。急ぎ足で風呂場へ運ばれ、ゆっくりと降ろされる。限界が来たのは、そんなタイミングだった。
「や、だ、でちゃ、う! でるっ、で……――!」
自分の意志とは関係なく、尻の下に大きな水溜まりができていく。溢れ出したらもう止められなくて、鍵師の目の前で俺はみっともない姿を晒してしまったのだった……。
そんなハプニングから一週間が経った。いつ思い出しても恥ずかしくてやりきれない気持ちに溜息が出る。
鍵師は、ショックで声を失っていた俺へ「シャワーで身体を温めておいで」と言い、気を遣ってすぐに風呂場から出て行ってくれた。それだけではない、風呂から出てくるまで待っていてくれたのだ。
その後も「同意じゃなかったでしょう? 通報する?」とこちらを心配してくれた。
しかし、粗相を見られた恥ずかしさが邪魔をして、その親切を素直に受け取ることができなかった。俺は「大丈夫ですから」と鍵師の提案を断って、帰るよう促し、追い出してしまったのだった。
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