エピソード1

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エピソード1

私が勤務していたお店はいくつかありますが、そのほとんどがショッピングセンターと呼ばれるものになります。誰もが知る有名なショッピングセンターや、地域密着型のショッピングセンターなど、大小さまざまな店を経験しました。 その結果わかったことは、万引き犯はどこにでもいるということです。十年以上、万引き犯たちと向き合ってきましたが、万引き犯たちも千差万別です。 いわゆる職業窃盗犯(プロの泥棒)から外国人窃盗グループ、でき心による犯行、お金に困っての犯行、さらには万引き依存症など、数えたらきりがありません。 そんな万引き犯たちに対抗できる手段は、昔は万引きGメンによる現行犯逮捕がほとんどでした。警察に被害届を出しても、よほどの事情がない限りは捕まることもありませんでした。 その理由はいくつかありますが、一番は防犯カメラの性能の悪さと万引きを取り巻く環境にありました。 今では防犯カメラもデジタルになり、画像も鮮明となってます。しかし、昔の防犯カメラの映像は本当に酷いもので、人物の特定もあやふやで保存期間も短い上に、過去の犯行を調べるのに途方も無い時間と手間がかかるものでした。 それなのに、警察の捜査には全く重要視されませんでしたし、裁判でも軽く扱われていたそうです。それが今では、防犯カメラの映像が裁判の重要な証拠になっていますから、技術の進歩は本当にすごいものです。 ちなみに、どのくらいすごいものかといいますと、今では万引きの被害報告を売り場から受けてから犯人特定まで、早い時には数分で終わります。条件さえ揃えば、その日に被害届を出すこともできます。イケイケの警察官が担当になったら、そのまま万引き犯の家に行ってきて連れてくるなんてこともあった時代もありました。 ここからは余談ですが、駐車場の当て逃げなんかも対応が早いように思います。防犯カメラを確認し、加害者の車を特定したらすぐにお迎えに行くケースが多かったです。あまり警察は当て逃げとか捜査しないイメージがあると思いますが、防犯カメラに加害者を特定できる情報があればすぐに対応してもらえることが多いので、被害にあった時はめげずに警察に相談してみてください。もし、当て逃げをしてしまった場合、駐車場に防犯カメラがあれば残念ながら逃げることは難しいので、素直に謝ったほうが無難だと思います。 ちょっと話が脱線しましたので、万引きを取り巻く環境についてお話を戻します。 万引きは、刑法でいうと窃盗罪になります。今では罰金刑があり、昔と違っても正式な処分手続きがされるようになりました(といっても、まだまだ限定的です)。しかし、昔は万引き犯を捕まえて警察につきだしても、ほぼ弁償して終わりでした。未成年の場合は、店に親を呼んで弁償して終了のケースが圧倒的で、逮捕起訴されるケースはよほどの犯行か、別件を背負った常習窃盗犯でない限りはなかったと思います。 その理由として、窃盗罪には懲役刑しかなく、しかも懲役十年以下という重いものだったため、万引き程度の犯行に対しては重すぎるという考えがあったといわれてます。 ただ、万引きの被害が社会問題となり、万引きはお金を持っていない者の犯行という考え方から、お金を持っていても犯行に及ぶという考え方に変わったこともありまして、罰金刑がつくようになりました。おかげで、弁償して終わりだった万引き犯に対する警察の対応も大きく変わっていくことになり、万引きで逮捕されるケースも増えてきました。 以上が万引きに関する大まかな流れになります。ざっと流れを書いてみましたが、これで終わりではありません。実は、もっとも重要な変化がこの後に起きることになります。 なんだと思いますか? 答えはこのエッセイの終わりに書きたいと思いますが、ヒントを書いておきます。 それは、実は今の日本は皆さまが想像する以上に泥棒天国だということです。 泥棒してもなかなか捕まらない。 捕まっても起訴されない。 もし、みなさまの家に泥棒が入ったとして、警察に被害届を出すようなことがあったとしたら、注意して書類を見てください。 本当に窃盗罪の被害届になっていますか? 窃盗罪とは別に、住居侵入罪の被害届を警察は作っていませんか? 本来、住居侵入罪は窃盗罪に吸収されるので被害届を作る必要はありません。にもかかわらず、警察が住居侵入罪の被害届を取るのは、泥棒を捕まえるのに窃盗罪では無理だと考えているケースがあるからです。 ただ、被害届を受理してもらえるならまだいい方です。下手したら、被害届を受理してもらえないケースもあるのです。(その場合は被害相談となり、まず捜査されることはないと思います) そうした現状が強く出ているのが万引きの現場です。現在、警察に万引きの被害届を出そうとすると、一般人には到底理解できない理由で被害届の受理を拒否されます。 防犯カメラに犯行の一部始終が映っていても、あの手この手の言い訳を並べて被害届を受理しないようにしてきます。 なぜそうなってしまったのか? なぜ日本は泥棒天国になってしまったのか? その理由について、万引きにまつわるエピソードと共に考えていただけたらと思います。
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