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まずは万引きというものがどういうものかを知ってもらうために最初にご紹介する事件は、十年以上前ですが、私が万引きの怖さを初めて感じた事件になります。今ではなんとも思わないのですが(それも問題かもしれませんね)、当時はかなりの衝撃を受けたのを覚えています。
その日、私はいつものように防犯カメラで出入り口を監視していました。普通、防犯カメラで監視となると売り場を見ていると思われがちですが、実際は売り場以外の場所を監視することがあります。
理由は、万引き犯特有の動きが売り場よりも出入り口といった場所に出たりするからです。例えば、妙に急ぎ足だったり、買い物カートの戻し方が雑だったりと、ちょっとした違和感が出る場所が出入り口だったりします。
時刻は平日の昼下りでした。まだ三十代の男性が一人で出ていくのを確認しました。持ち物はなく、手ぶらでバックもありません。この時点で万引きの疑いはないのですが、一つ気になることがありました。
平日の昼下りに三十代男性が一人でいる。この時点で、ひょっとして働いてないのか?という疑問がありました。そこで、しばらく出入り口を監視していたところ、数分後に男が戻ってくるのを確認しました。
しかも、着ていたジャンパーが違っていて、帽子までかぶっていました。
なにかあると判断した私は、すぐに売り場を巡回していた万引きGメンに対応を依頼しました。
防犯カメラがあるといっても、当時は全ての売り場を映しているわけではありませんでした。死角だらけでしたし、どうしても犯行の一部始終の確認は人の目に頼る必要がありました。
ほどなくして万引きGメンが売り場に来たので、防犯カメラとダブルの監視となりました。
男は、家電売り場を徘徊した後、家具売り場で不審な動きを始めました。万引きGメンによると、ダンボールに入っている商品を取り出しているとのことでした。
一瞬、『中抜き』という手口が頭に浮かびました。中抜きとは、パッケージの中から商品だけを取り出し、パッケージは陳列棚に戻す手口です。
ただ、取り出しているのは大きめサイズの商品ですから、中抜きにしては大胆過ぎます。梱包されてない商品をどうやって運ぶつもりなのかが気になりました。
やがて男は、なぜかダンボール箱を持って家電売り場の近くにやってきました。この時点で、男の狙いは商品ではなくダンボールにあり、かつ、なにをするつもりかわかりました。
男は、想像通り棚に保管してある高額家電製品を次から次にダンボールへ詰め込んでいきます。その慣れた手つきから、ただの万引き犯ではないことは一目瞭然でした。
ただ、ここで一つ疑問がありました。高額商品にはワイヤー型の警報器がついているのですが、通常、勝手に棚から持ち出すと警報器が作動するはずなのに、万引きGメンからは警報がなっている気配はないとのことでした。
なにかがおかしいと感じながらも、とにかく監視を続けます。男は、まるでパズルをするかのようにダンボール箱の中へ隙間なく高額家電製品を詰め込むと、きれいに梱包していきました。
そのまま出ていくのかと思いきや、男は普通の万引き犯と違ってレジに向かいました。買い物カートに高額家電製品が入ったダンボールを載せ、何食わぬ顔でダンボールに印字されたバーコードを店員に読み取らせたわけです。
当然、レジには高額家電製品の値段は出ません。ダンボールに入っていた商品の値段だけが表示され、男はその分を支払うとまんまとダンボールに買い上げ済のシールを貼ってもらっていました。
こうなると、あとは涼しい顔で店を出るだけです。途中、従業員がいても買い上げ済テープのおかげで不審に思われることはありません。その手口の狡猾さに、防犯カメラで見ていた私も妙に感心しました。
とはいえ、これは立派な犯罪ですからね。男が商品を車に載せたタイミングで声をかけました。
男はわずかに動揺しながらも、観念したかのように抵抗することなく事務所に同行してくれました。
ここから、いよいよ男の正体が判明していくのですが、一見普通の男性と思われた男の正体は、実はとんでもない大泥棒だったのです。
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