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告白
「ほら、これ。これだと2巡目以降はiの初期化を通らないよね」
早朝のオフィス。
出勤するにはまだ早い静かなフロアに私、黒宮仁美の声が響く。
朝日がブラインドの隙間から差し、パソコンの画面に反射する。
私は身体で日差しを遮るかのように、パソコンの正面に座る彼の右側へ移動し、ぐっと近くに寄った。
「あとね、ここ。自作せず、この共通関数を使えば楽だから」
「あ、そうでした。気を付けます」
主にソフトウェアの開発を行なっている大井システムズ(株)の自社ビル3階、システム開発部のオフィスフロア。
就業前ではあるが、後輩である杉村君が「完成させたプログラムを確認してほしい」との事で、私は昨夜のうちにチェックし、気になった点を朝イチで報告している。
まだまだうっかりミスを残してしまう杉村君。
プログラムの動作確認を行う前に、バグは1つでも多く潰しておく事が望ましい。
「うん、今回は思った以上によく出来ていたよ。ちゃんと仕様書通りだった」
「あ、ありがとうございます」
プログラムを修正しながら軽く頭を下げる杉村君の横顔は、口角が上がってちょっと嬉しそうだ。
「最後にね、私、杉村君のことが好きなんだ」
不意打ちを狙った告白。
杉村君は驚いて私の方を振り向き、あまりにもお互いの顔の距離が近くてまた驚き、顔を正面に戻した。
「く、黒宮先輩。朝から目の覚める冗談ありがとうございます」
杉村君はプログラムの修正を続けるが、動揺し手が震えているのかタイプミスを繰り返す。
「嫌だ、失礼ね。冗談じゃないわよ。私、本気なのよ」
私が赤面する杉村君の顔を覗き込んでも、彼は目を合わせようとしない。
「ダメですよ。僕、彼女がいるんです」
「うん、知ってるよ」
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