Case 6-2:彼女の島 English Ver.

20/32
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
 マリーちゃんの家は代々、ピアノ教室をやって来たのだから。挨拶のできないような弟子── 子供がいたら、きちんと叱るだろうし。  いも子ちゃんの家── 一口(いもあらい)家も、お父さんは日本(フランス?)を代表するような大企業のお偉いさんなので厳格そうだし。  ウチだって代々接客業なので。挨拶や感謝の言葉などには厳しく躾けられてきた。  でも…… そう言えば昔、『電気男(エレクトリック・マン)』のメンバーのバイト先の話で、妙なことを聞いた覚えがある。 「父が偉いな、と思ったのは。毎朝、挨拶をしない母や妹に必ず、朝起きて初めて会った人には『おはよう』って言うんだよ。って優しく言っていたことです。  私は、またか…… と思って溜め息()いてばかりでしたけど」  そんな…… 幼稚園の先生じゃあるまいし。と言うか、朝の挨拶ができない母親って…… それを娘から指摘されているなんて…… 「それだけじゃありません。昼も夜も、寝室に向かう時も。家を出入りする時や食事を始めたり終えたりする時も。  私は父に倣ってしていましたけど。母や妹から、挨拶や感謝の言葉を聞いたことがありません。母はともかく。妹には、あれで大丈夫なのかな…… って心配に思う時すらあるくらいで」  そう言えば…… と、何かを思い出したように呟いたのはマリーちゃんだった。 「ウチはピアノ教室をやっているじゃない?まあ、初めはとても幼い頃に、母親に手を引かれてやって来る女の子がほとんどで。  最初のうちはレッスンを始める時に『先生、よろしくお願いします』が言えない子が多いから、まずはそれを教えることが多いかしら」  それは興味深い話だ。 「母親が、そう言うように教え込んでいない。ってことだよね。それってどれくらいの割合?」 「そうねぇ…… 最初から言える子が、4~5人に1人くらいかしら」  なるほど。  私もいい?と、カウンターの向こうにいるいも子ちゃんが挙手をする。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!