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途中、光はパソコンの手を休めてはバスからの景色── 特に明石海峡や鳴門海峡に架かる吊り橋からの瀬戸内海の絶景を楽しんでいたようであるが。
剛のほうは終始眠り続けたまま、終点の高松駅に近いバスターミナルまでやって来たようだ。
これから訪れる場所へは高松駅から電車を乗り継いで行かなければならない。
少しだけ乗り換えに時間の余裕があったので。以前に住んでいたことのあるという剛の案内で高松駅に近いうどん屋で早めの昼食。
高松を初めて訪れた光は、街並みに並ぶその『うどん屋』の店舗の数に驚いていたようである。
高松駅からは30分ほど普通の電車に乗り、途中の宇多津という駅で岡山からやって来る、高知行きの特急に乗り換える。
「そっか…… 香川県内の移動だから、まずは高松に行ってからと思って高速バスに乗ろうと思ったんだけど」
乗り換えのためにホームで特急が来るのを待っていると、高松のうどん屋から始まった剛のボヤキが再燃した。
どうやら最寄駅が『阿波池田』という駅なのに、どうして高松経由を選んだか。についてらしい。
「まずね。阿波池田って『阿波』って言うくらいで、香川じゃなくて徳島だから」
「徳島…… 途中、鳴門海峡を渡って来たよね。綺麗だったなぁ」
「俺は寝てたから見てないけど。なんで俺達、その駅を目指しているわけ?」
「大西さんに訊いたらさ、一番近い駅は阿波池田だって言うから」
列車がやって来るであろう方向の、遠い線路の先を見つめながら剛が眉を顰める。
「本当にそこ、香川県なの?」
「嘘じゃないよ、ホラ」
「…… 本当だ」
光が見せる、これから訊ねる先の住所を見て剛は納得したようだ。
「じゃなくて。高知に向かう『土讃線』の特急って、昼間は岡山から出ているんだよ。
大阪から向かうんだったら高松じゃなくて、新幹線で岡山だったな。
逆に高松からの特急は、昼間は『予讃線』の松山行きばっかりだから」
「そうなんだ。どうしてだろうね」
剛が発している熱は光に届いてはいないらしく。光は冷静に、あっけらかんと質問を返す。
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