Case 6-1:彼女の島

2/33
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
 通夜は淡々としたものだった。  俺が会場に着くと、しばらくして僧侶による読経が始まると言うので。  小さなホール── 見慣れたシゲさんの笑顔の遺影が飾られた祭壇の前に用意されたパイプ椅子に座っていると、やがてセージ。そしてリュウも現れた。  読経が終わり、俺達を含む参列者はホールを後にする。  ご家族と挨拶をした際に、俺だけシゲさんの奥さんと思われる女性に呼び止められてしまった。  なのでセージとリュウには先に中央方面に戻ってもらうことにした。  奥さんとの話を終えて横須賀方面側へのバス停に着いた頃、携帯にメッセージが入る。  中央駅付近で入った居酒屋を知らせるセージからのものだ。  俺はスーツのまま、乗ったバスで横須賀中央駅まで行きメッセージに記された店の暖簾をくぐる。 「奥さん、なんだって?」  奥の座敷に、スーツ姿のセージとリュウがいた。  仕事帰りのリュウは何度も目にしているが、セージのスーツ姿には違和感しか覚えない。まるで成人式に参加したヤンチャ坊主のようだ。 「っつーか、シゲさんの奥さんってあんな人だったのな。俺、初めて見たよ」  座敷に向かい合って座っているセージとリュウ。俺はいつもそうしているように、セージと向かい合うようにリュウの隣を陣取る。  この2人、酒のペースが尋常ではない。グラスやジョッキが空にならないように、居酒屋ではいつも多めに注文する。  そのためテーブルの上には必ず手付かずの飲み物があるのだ。  俺はその中のひとつ。生ビールと思われる、手付かずのジョッキを手にする。 「…… では改めて。シゲさんのために献杯」  俺の動作をずっと目で追っていたセージがジョッキを掲げるので、俺とリュウも続く。そしてしばらくの黙祷── 「で?シゲさんの奥さんだよなぁ。俺も初めて会った」 「なんだ。セージが会ったことないんだったら、俺が知るわけないじゃん」 「奥さんだけじゃないゼ。話には聞いてたけど、2人の娘さんにも初めて会った」 「俺なんか、子供がいることも聞いてなかったよ」 「で?奥さんに呼び止められて、どんな話をしていたんだ?ヒカリ」  シゲさんの友人であるセージは、今回初めて会った奥さんが俺を呼び止めたことを不思議に思っているようだ。  俺自身も不思議に思ったさ。奥さんの話を聞くまでは。  ジョッキに入った黄金色の液体を喉に流し込んでから、俺はセージとリュウに話し始める。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!