Case 6-1:彼女の島

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「俺達、生前のシゲさんが贔屓にしてくれて、ずっとライブに足を運んでくれていたバンドのメンバーだゼ。  通夜の席とは言え、も少し気の利いた挨拶があってもいいんじゃねーかと思ったんだけどな」  確かに…… 俺が感じていた違和感は、リュウの発言によって確信に変わった。 「なあ。奥さんは俺達のこと、『ひまわり』のメンバーだって思っていなかったんじゃないのか?」  俺がそう口にすると、セージもリュウもどこか納得したような表情を見せる。 「そうだよな。香典袋に『ひまわり』とは書かねーし」 「記帳する時も、氏名しか書かねーだろ?普通」 「ましてや会場で、俺達が『ひまわり』だー!っていつもみたいに叫んだわけでもねーし」 「俺達、ただの地元の知り合いだと思われてた?」 「そう。俺が奥さんと話したのは、シゲさんの遺品── CDや本の処置についてだけ。奥さんは俺のこと、ゴミを処分してくれる業者のようにしか見ていなかった」  俺のその発言で沈黙が訪れてしまった。  俺と同じようにセージもリュウもきっと、家庭内でのシゲさんの立ち振る舞いについて、思いを巡らせているに違いない。  俺達『ひまわり』の連中のシゲさんに対する印象。それは人懐っこくてお節介な、気のいい兄ちゃん。で、きっと一致している。  俺達メンバーだけでなく、ファン同士でも誰とも分け隔てなく接し、その場── 特にライブ前の客席を温めてくれるような存在。  差入れの品だけでなく、そんなシゲさんの人情が好きだったし、ありがたくて心強く感じることもあった。  『ひまわり』にとっては、なくてはならない人物だったのに。シゲさんは家族の前では、どんな存在だったのだろうか…… 「で?ヒカリはその、シゲさんコレクションの処分を引き受けたのか?」  セージが空になった焼き鳥の串を向けるので、俺は頷いてから答える。 「ああ。『本町ストア』に査定を頼め。ってのがシゲさんの遺言らしいから。  でもまだ奥さんの心情とか、風間家の事情もあるだろうから。奥さんには落ち着いたら連絡をくれ。って名刺を渡してきた」  シゲさんのことを思い出しているのか。セージがどこか遠い宙を見ながら言う。 「あのシゲさんのコレクションか…… ちょっと興味はあるな」
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