Case 6-2:彼女の島 English Ver.

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 用が済んだからには、長居は無用だ。俺は奥さんに5千円を支払い、領収書にサインをもらって風間家を後にする。  訪れたのが平日の昼間であったので実花ちゃんが不在であったのが残念だけど。  逆に実花ちゃんと仲良くしているところを、あの奥さんに見られるとマズいので良かったのかも知れない。  きっと賢く生きてきたシゲさんのことだから。病気を宣告された瞬間に、その人生設計も緻密に敷き直したに違いない。  副業や財テク、勤めていた会社から支払われる額…… 自分の死期から逆算して、残された家族の負担が少しでも減るように。  それはさっき、奥さんが言っていたとおりだ。シゲさんはきっと生前に、自分が死亡退職となった時の退職金の額について会社と交渉していたのだろう。  ちょうど家のローンを返済できる額に。  きっと賢いシゲさんのことだから。残された家族があの家で暮らして行けるように、自分がいなくなっても支払われ続ける印税(ロイヤリティ)のような収入もあるのだろう。  ただひとつ、シゲさんはギャンブルに出た。一世一代── まさにその命を懸けての賭けに。  もし、シゲさんのコレクションが『本町ストア二号店』に持ち込まれたことを知り、実花ちゃんがウチに駆け込んで来なかったら。  俺はシゲさんの賭けに気付けなかった。いや、それを知って実花ちゃんがウチに駆け込むこと自体がだったのだ。  上手くいけば。シゲさんのコレクションが最安値で古本屋の手に渡ったことを母親から聞いた実花ちゃんは、再び『本町ストア二号店』に来るはず。  今は静かに、その日を待つしかない。
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