Case 6-2:彼女の島 English Ver.

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♪  寒さが一番厳しい2月の初旬── とは言え、温暖な気候である横須賀では、朝に氷が張ることさえ稀なくらいだ。  寒冷な立川── 毎朝、家の周りの畑や街路樹が霜で真っ白になる、俺の出身地である多摩の内陸と比べると、それだけでいくぶん過ごしやすい。  朝10時の開店とほぼ同時に故、風間 繁之さんの長女である風間 実花ちゃんが『本町ストア二号店』にやってきた。  今は店のダイニングテーブルに向かい合って座っている。で、なぜか俺の隣にはマリーちゃんも。  今日は月曜日。昨晩は仲良くさせてもらっているバンドのワンマンライブが横須賀の老舗ライブハウス『harbor(ハーバー) view(ビュー)』で行われていた。  我々『ひまわり』の面々も勢揃いでライブを鑑賞、そしてその後の打上げまで一緒に過ごしたのだ。  当然のように俺が住む不入斗(いりやまず)のアパートに泊まったマリーちゃん。  実花ちゃんが来ることを知っていたので、私も会いたい。と、横浜には帰らずに一緒に出勤したのだ。  実花ちゃんが連絡をくれたのは、俺が丘の上の風間家を訪れて奥さんに5千円を支払ってきた次の日のこと。  大丈夫。遺品はすぐに全て俺が買い取って、ウチの物置にある──  というか。伝票やお金だけが動いて、品々は微動だにせずにウチの在庫として保管されたままだと告げると、実花ちゃんも安心したようで。  2月── 学校の授業が全て終了して自由登校になったら、お店に伺います。と言われて。それで実花ちゃんがやって来たのが今日である。 「父の納骨も無事に済ませまして。これからはが父の── 風間家の供養を続けて行こうと思っています」  砂糖たっぷりのコーヒーを飲みながら、実花ちゃんが言う。  実花ちゃんが来ているので、BGMはシゲさんのコレクションからの選択。唯一シゲさんに宛てられたサインの入る、あの女性シンガーの『English Ver.』。 「そっか。決心が着いたんだね」  実花ちゃんは静かに頷いてから続ける。
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