Case 6-2:彼女の島 English Ver.

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「母の出身は、父が学生時代を過ごしていた場所からそう遠くない所なんです。  父方の祖父母が生きていた頃はよく、父の実家と一緒に母の実家へも行っていたのですが。  祖父母が亡くなり、父が実家を売り払ってから。あまり母の実家へは行かなくなってしまいました。  母は独りで、よくをして駆け込んでいましたけど。  母と妹はこの春から、その実家に引越すそうです。妹の高校の転入試験も、もう済ませているそうです。  私は大学もあるので、あの家に独りで残ることにしました。『MORE'S(モアーズ)』に入るカフェでのバイトも決まりましたし、あの家からのほうが何かと便利なので。  父は計算ずくだったのか。会社からの退職金であの家のローンが返済されてしまってから。母はあの家に── 風間家に対する執着をなくしてしまいました。  父が残してくれたあの家と、今後も父の名義で入り続ける収入を、母は全て放棄して私に譲って。  残された父の遺産で私の大学の学費も賄えることを知ると、自分は実家へ帰る算段を進めました。  母に懐いていた妹も、母の実家で細々と祖父母のお世話になることに同意したようです。  これってもう、立派なですよね。  私は父のお陰で、生まれ育ったあの家と父の遺産、父名義の印税収入を手に入れました。その対価として、私が風間家を継いで行くつもりです。  父の納骨の際── 母と妹が席を外した時を見計らって、親戚の皆さんにその宣言もしてきました。もちろん、お寺へのご挨拶も」  2人の娘がいながら、して実家に逃げ込むだと?それじゃあまるで、自由奔放なシゲさんのただのじゃないか、あの守銭奴め!  俺のお袋なんか、親父が実家に居座って家業を継いでしまったせいでどこにも逃げ場がなかったのに、愚痴ひとつ聞いたことがないぞ。  …… って。俺がに、同居していた妹の(そら)に愚痴ってたかも知れないけど。
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