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それから一週間ほど過ぎた昼下がり。シゲさんの奥さんから店の電話に連絡があった。
家も落ち着いてきたので部屋のものを見てほしいと、改めての依頼だった。俺は奥さんと訪問する日時を決め、家を訪れる算段を整える。
シゲさんの所有物はその場で査定せず、一度持ち帰ってゆっくり品定めをしよう。通夜があった夜から考えて、そして至った決断だ。
なので、当日は店のワゴン車を運転してシゲさんの家に向かう。
携帯のナビソフトに住所を入れると、地図は衣笠駅方面の住宅街を示した。
不入斗にある陸上競技場やアリーナと呼ばれる大きな体育館、プールなどがある体育施設をかすめるように通る、整備された木立が綺麗な道を進み。
両側に住宅が並び始めた頃、左折して坂を上りさらに住宅街の深部へと進み入る。
ナビが指したシゲさんの家は比較的大きな通りに面していて、その路上に店のワゴン車を停めることができた。
丘のほぼ天辺に位置する、区画も広い裕福そうな住宅街の一角だ。
カーポートと綺麗に整えられた芝生── ではないな。最近流行りの、地表を低く這うタイプの新種のイワダレソウの一種だろう。
その綺麗な緑が目を引く庭の間にある小径を抜けて、洒落た感じの玄関のインターフォンを押す。
現れたのは先日の通夜で話をした、シゲさんの奥さん。俺は家の中へと招かれながら、まずはシゲさんへの挨拶を申し出る。
奥さんに案内された二階にある仮の祭壇は、きっと生前のシゲさんが書斎として使用していた部屋なのだろう。
壁一面の書架に雑誌や単行本、それにCDなどが並ぶような部屋だ。
祭壇に線香をあげ、手を合わせた俺は一階のリビングへと通される。
「1年くらい前だったかしら。主人は急に体調不良を訴えるようになって。ちょうどその頃、会社で受けた人間ドックの結果が帰って来て。
気になる数値があったらしくて、結果を持って掛かり付けの内科医に持って行ったんです」
お茶を淹れてくれた奥さんがソファーの向かい側に座り、静かにシゲさんのことを話し始めた。
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