Case 6-1:彼女の島

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♪  それから一週間ほど過ぎた昼下がり。シゲさんの奥さんから店の電話に連絡があった。  家も落ち着いてきたので部屋のものを見てほしいと、改めての依頼だった。俺は奥さんと訪問する日時を決め、家を訪れる算段を整える。  シゲさんの所有物はその場で査定せず、一度持ち帰ってゆっくり品定めをしよう。通夜があった夜から考えて、そして至った決断だ。  なので、当日は店のワゴン車を運転してシゲさんの家に向かう。  携帯のナビソフトに住所を入れると、地図は衣笠駅方面の住宅街を示した。  不入斗(いりやまず)にある陸上競技場やアリーナと呼ばれる大きな体育館、プールなどがある体育施設をかすめるように通る、整備された木立が綺麗な道を進み。  両側に住宅が並び始めた頃、左折して坂を上りさらに住宅街の深部へと進み入る。  ナビが指したシゲさんの家は比較的大きな通りに面していて、その路上に店のワゴン車を停めることができた。  丘のほぼ天辺に位置する、区画も広い裕福そうな住宅街の一角だ。  カーポートと綺麗に整えられた芝生── ではないな。最近流行(はや)りの、地表を低く這うタイプの新種のイワダレソウの一種だろう。  その綺麗な緑が目を引く庭の間にある小径(こみち)を抜けて、洒落た感じの玄関のインターフォンを押す。  現れたのは先日の通夜で話をした、シゲさんの奥さん。俺は家の中へと招かれながら、まずはシゲさんへの挨拶を申し出る。  奥さんに案内された二階にある仮の祭壇は、きっと生前のシゲさんが書斎として使用していた部屋なのだろう。  壁一面の書架(しょか)に雑誌や単行本、それにCDなどが並ぶような部屋だ。  祭壇に線香をあげ、手を合わせた俺は一階のリビングへと通される。 「1年くらい前だったかしら。主人は急に体調不良を訴えるようになって。ちょうどその頃、会社で受けた人間ドックの結果が帰って来て。  気になる数値があったらしくて、結果を持って掛かり付けの内科医に持って行ったんです」  お茶を淹れてくれた奥さんがソファーの向かい側に座り、静かにシゲさんのことを話し始めた。
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