Case 6-2:彼女の島 English Ver.

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「偉いわぁ、実花ちゃん。女の子なのに……」  隣でマリーちゃんが関心の唸り声をあげる。  そう言えば、今沢家も女性主体の家系だ。欧州(ヨーロッパ)のどこかの山奥に住んでいた太古の昔から、今沢家は女性のみでそのを受け継いで来た。  家を継ぐ、家を守るという意味では共感する部分があるのかも知れない。 「そんなことありません…… それに、そのことに気付かせてくれたのは── 私が風間家を継ぐ決心ができたのは、父の遺品を保管してくれた店長さんのお陰なんです」  え?俺の? 「父は母に『書斎の本やCDの処分を本町ストアにお願いするように』との遺言を(のこ)しました。  店長さんが母の言葉どおり、父の遺品を処分してしまっていたら。私は父の本当の気持ちに気付けなかったかも知れません」  ああ…… シゲさん。俺、シゲさんのお役に立てたんっスかね?  いつの間にかリピートしてしまっていたCDの1曲目がこう歌っている。 "I will never let myself forget you"  と。  その27年前にリリースされた日本語版で言うところの『あなたを忘れてあげない』。  俺も絶対に忘れてあげませんから。シゲさんのこと。  そして、実花ちゃんだけにあの家と財産を残してあげるために仕組まれた巧妙な罠── 実花ちゃん自身もそう表現していた、の罠のことも。 「ところで店長さん。父のコレクションを買い戻させていただきたいのですけど」  実花ちゃんは改めて背筋を伸ばし、肩から斜めにかけている可愛らしいポーチから財布を出そうとしているように見えたので。 「いいよいいよ、持ってけ泥棒。お母さん達がいなくなったら、そのまま家に届けてあげるから」 「いえ…… でも……」  俺が両手で阻止するようなジェスチャーをすると、実花ちゃんは困ったような表情を見せる。  なので古本屋に渡す前にコピーしておいた、シゲさんの奥さんのサインが入った5千円の領収書を実花ちゃんのほうへ向ける。
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