Case 6-2:彼女の島 English Ver.

21/32
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
「学生時代── 専門学校時代にバイトをしていた、某ジーンズショップでなんですけど。  やっぱり、バイトに来たり帰る時に。『おはようございます』とか、『お先に失礼します』とか言えない子が多かったかな」 「え?ジーンズショップって、接客業なのに?」  いも子ちゃんに訊ねてから、それが愚問であることに気付いた。 「同じ店でも、接客をするのは社員やアパレルを目指しているバイトの子。私達はひたすらミシンに向かってばかりのだったから」  そう。一口 晶子はアニメ好きが高じてコスプレを趣味とし。そのために高校を卒業後は洋裁の専門学校に通っていたくらいなのだ。 「こっちも作業に集中してるから。気付かないうちに幽霊みたいにスゥ~、って現れて。隣のミシンでカタカタし始めて。  帰る時も何も言わずに。あれ?いつ帰ったの?って思うくらい、幽霊みたいにスゥ~、っていなくなってるの」 「…… それって、どれくらいの割合でいた?」  念のため、マリーちゃんと同じ質問をぶつけてみる。 「ほとんどそうだったんじゃないかな。逆に私みたいのが鬱陶(うっとう)しがられてたみたい」  なるほど。 「じゃ。最後に俺もいいッスか?」  さっき思い出した話をするために、俺も手を挙げる。 「昔いたバンドのメンバーがやってたバイト先の話なんだけど。ある業界での仕分け作業を、学生時代から長年やっていたみたいで。  よく飲んでる時に愚痴っていたんだよ。あの業界は社長をはじめ、社員すら挨拶がなっていないからバイトが育たない、って。  奴は社内で社員を見かけたら。立ち止まって帽子を取り、深々とお辞儀をして挨拶をしていたようなんだけど。  ほとんどの社員は無視。中にはほんの少しだけ、手を挙げて答えるだけだったり、『うぃ~』とか、わけのわからない言葉で返して来る人がいるだけだって。  音楽で食って行けなくなっても、あの業界だけには就職するのやめよう。って言ってたっけ。  だから実花ちゃん」  俺は改めて実花ちゃんと真剣に向かい合う。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!