Case 6-2:彼女の島 English Ver.

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「挨拶や、相手に心からの感謝や謝罪の言葉を向けることは大切だよ。これは本当。  でも今の世の中、それができなくても生きて行けている人達がほとんどなんだ。  俺とかマリーちゃんとかはバンドマン── 音楽業界の仕事もしているからさ。俳優さんとか芸人さんとか、芸能界もそうだろうけど。  ある意味、人気商売だから。挨拶ができる人とできない人とで天秤にかけた時、能力の良し悪しの前に、まず挨拶ができる人が選ばれるような世界なんだ。  だから自ずと挨拶とか、感謝や謝罪の言葉の大切さが学べるんだ。  でも、ある決まった時間帯にそこにいるだけで給金(サラリー)をもらえてしまうような人々はどこかで麻痺して。いつしか、そんな当たり前のことすら忘れてしまうんだろうな。  これって、立派な退だよ。  でも実花ちゃんには、シゲさん── お父様がそう教えてくれていたように。挨拶や、心からの感謝や謝罪の言葉の大切さを知っていて欲しい。  …… って、こんな金髪野郎に言われなくてもわかってるか」  実花ちゃんは人懐っこそうな笑顔を向けてくれる。それはどこか、シゲさんの面影に似ているような気がした。 「ああ…… なんか、父以外の人に理解してもらえると、どこかスッキリしますね。もうひとつ、愚痴ってもいいですか?」  時間の許す限り、お好きなだけどうぞ。俺はそんな意味で頷きながら右手で合図を送る。  すると実花ちゃんは、ありがとうございます。と笑顔を向けてからコーヒーカップを口にする。  そしてひとつ、深呼吸をしてから口を開いた。 「さっき店長さんは、あの家でひとり暮らしは大変じゃないか、って仰ってくれていましたけど。  むしろ楽しみなんです。好きな時に好きなだけ家事ができると思うと。今までは母に隠れるようにしてやって来たことが多かったので」  とは、なんだろう。
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