Case 6-2:彼女の島 English Ver.

24/32

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
 父がイートインコーナーで食事をしていたんです。容器に入ったままの豆腐── 冷奴をおかずにして、温めてもらったパックのを。  しかも、涙でも流していそうな恍惚の表情── ああ…… コンビニのご飯って、なんでこんなに美味しいんだろう…… って顔をして。  もう、その時は父が不憫でなりませんでした」  ひどいな…… でも、シゲさんはシゲさんなりに、奥さんを傷付けないように気を遣っていたんだろうな。  それにしても、コンビニで冷奴とパックの白米って…… しかもイートインって、対応した店員も吃驚(びっくり)しただろうな。 「あとは…… 言い出したらキリがないのですけど。やっぱり掃除ですかね。  母が毎日使っているのは何十年も前の型の、音ばかりが大きくて吸引力がゼロの、電気の無駄遣いばっかりしている掃除機なんです。  たまに、袋にゴミが集まらないのを見て。家が綺麗なんだなと変な納得をしていますけど。  妹は意外と平気みたいですけど。父は極度の花粉症。私はハウスダストの気があって。母が掃除機をかけた後はクシャミが止まらなくなるので。  母が掃除機を出す気配を感じたら。大雨でも極寒の真冬でも、ふたりで庭や車の中に避難します。  あと、よく『掃除は上から』が鉄則って言うじゃないですか。霧吹きや濡れた新聞紙などでホコリをまとめておいて、ハタキで上から順々に床に落としてから、最後に床に掃除機をかける、みたいな。当たり前ですけど。  でも母はその全てを行わずに。しかも吸引力ゼロの掃除機で床をだけなんです」  …… それで掃除になっているのだろうか。いや、なっていないよな。シゲさんも実花ちゃんも、アレルギー持ちだと言っていたし。  綺麗に見えたあの豪邸だけど。どうやってその清潔さを維持していたのだろうか。 「なので父も私もいる休日で、母が妹だけを連れて買い物に行くって家を空けた時がチャンスで。  …… 実は、ほぼ父と私しか出入りしないピアノ室の押入に。吸引力が自慢の最新型のコードレス掃除機を充電器ごと隠してありまして。  霧吹きやハタキ、雑巾などを速攻用意して。母たちが帰って来るまでの隙に急いで全部屋の掃除を済ませるんです」  いや、もう健気でしかない。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加