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「だから、この4月── あの人達が出て行ってからが楽しみなんです。
独りで父が建てたあの家を隅々まで掃除したり、庭の手入れをするのは大変だと思いますけど。
タイミングが合わなくて── 母が妹とだけ外出した時に、父と私が家にいる。
って機会が少ないと、天井の隅や電灯を垂らしているコードに蜘蛛の巣なんて見えた時には……
父も私も、掃除がしたくてウズウズしちゃって。
好き勝手、好きな時にできると思うと。今までから比べたら、楽しみでならないんです。
ご飯だって。あの人達は母の実家に帰るわけですから。一切の家財道具は残してくれると言っているので。あ、でもあの昔の掃除機はいりませんけど……
自分で美味しいものを、いつでも好きなだけ作れる。って今から考えたら……」
実花ちゃんは両方の手の平を頬に当てて、恍惚の表情を浮かべて喜んでいる。よっぽど今までの── 母親との暮らしに不満があったのだろう。
「あのカーポートに駐めてあった高級車はどうするの?実花ちゃん、まだ免許を持っていないよねぇ」
「ええ。なので、あの車は母に譲ります。田舎は何かと入用でしょうから。でも、あの母があの車の管理、維持をして行けるかどうかは知りませんけど。
父はあの車をよほど気に入っていたようで。自分でよくエンジンルームに首を突っ込んでは整備をしたり。車検でもないのに車屋さんに見てもらったりしていましたから。
私は私で。これから教習所に通ってみて、もし必要だったら自分に相応しい車を選んで乗ろうと思います」
やっぱり実花ちゃんはシゲさんに似て、賢い子なんだろうな。
「お母様も、あの車を使っていたの?」
「ええ。ご覧のとおり、ウチに車庫は1台分しかないので。近所の── 海沿いにあるスーパーへ買物に行くにも、あの車を使っていましたよ。
毎日のようにケータイの広告を見て、安いところのスーパーを2~3軒巡っていたようです。節約家のように見えて、実は倹約でしかないんです」
ん?どーゆー意味だろうか。
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