Case 6-1:彼女の島

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「その結果を見て、お医者さんに思うところがあったのでしょう。  同期の名医が働いているからと、本町にある大きな病院を紹介してもらいまして」  とは本町ストアの本店がある『ドブ板通り』から近い、丘の途中にある病院のことだろう。  シゲさんの身体(からだ)のいたるところから悪性の腫瘍が発見され、その時はもう、手術どころか治療さえもできない状態だったそうだ。  シゲさんはその全てを痛み止めの薬で隠し、残りが短くとも普段どおりの生活を望んだ。  しかし病魔の侵攻は速く、亡くなる数日前に危篤状態となりそのまま病院で息を引き取った──  勤める会社と家族以外に、シゲさんは病気のことを隠し通したのだ。俺達がその訃報に驚いたのも無理はない。  病気がわかってからのシゲさんと、俺達は何度も会っている。打ち上げの席では酒も飲んでいたし、病気のことなんか全然気が付かなかったな……  どこかで打ち明けてくれていたら。マリーちゃんのでどうにかできたのだろうか。と考えても、もう遅いのか。 「奥様も、さぞ驚かれたのではありませんか?」 「ええ、そうね」  俺はシゲさんの病気の発覚と、その侵攻の速さについて訊ねたつもりだったのだけど。 「無理してなるべく会社へは行っていましたけど。最近は体力的に厳しかったみたいで休みがちでしたし。まだこの家のローンも残っているのに……  それに、ウチは女の子2人でしょう?あの人が入った後の風間家のお墓を処分しなければいけない問題もあるし……  あらやだ、ごめんなさい。主人の遺品についてでしたよね。衣類やその他のもの── 主人から特に何も言われていない物は、全て処分が済んでいます。  残っているのは、あの人が言い遺したあの部屋の代物だけなので」  俺は奥さんに考えを伝え、書斎部屋の書架にあるものを── 雑誌や文庫本も含めたすべてを一度預からせてほしいことを告げる。
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