Case 6-2:彼女の島 English Ver.

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 俺を含め、ここにいる全員が口をポカンと開けるしかない。なんなんだ、いったいこの()は。 「あ…… ごめんなさい。少しお喋りが過ぎましたよね。生前の父の口癖だったんです。『(ことわり)を制する者は宇宙を制する』と」  生前の経歴から見ても。シゲさんは純粋な理系の人だったわけか。その血がきっと、長女である実花ちゃんにも色濃く流れているのだろう。 「わかった…… えっと…… 風間家にとって、お母様があまり機能的に貢献してはいなかったことはわかったよ。  実花ちゃんからの話を一方的に聞いているだけだから不公平だとは思うけど。  それでも聞いた話だけで判断すると、シゲさんの奥さん── 実花ちゃんのお母様は、都市部で効率的な生活が可能な人種には思えないね。  やっぱり一刻も早く、ご自分の実家に引き籠ったほうが他の人のためでもあると思うよ」  俺が呆れてそう言うと、実花ちゃんは少しだけ寂しい顔をする。 「本当は…… これからも3人であの家で暮らして行けたら、って思うんです。  父がいなくなって寂しいかも知れませんけど、それでも父の思い出や面影を思い出しながら、今までみたいに楽しく暮らせたら。とは思うのですけど、やっぱり無理なんですよね……」  俺は先日、汐入の店でセージと語り合っていたことを思い出していた。  奥さんや妹さんは、その他大勢(マジョリティ)である。  シゲさんと実花ちゃんは、少数派(マイノリティ)である。  この異なった勢力は決して交わることなく、いつまでもている。これは揺るぎない事実。  無理して同居を続けるより、その勢力の中に身を置いたほうがお互いのためなのだ。  シゲさんがもし若い頃。同じ少数派(マイノリティ)の人種の中に、毎朝決まった時刻に起こしてもらえる異性に出会っていたら。  もっと違った未来が用意されていたのだろうか。
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