Case 6-2:彼女の島 English Ver.

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♪  土曜の夕方。ここは藤沢駅に近いライブハウス。タイバンのライブまもなく開場の予定なのだが、我らが『ひまわり』のリーダー、田部井 誠治の様子がおかしい。  いつもなら控室の真ん中にある椅子に腰を据えてビールで景気付けの一杯、と洒落込んでいる時間なのだが。  なんだかソワソワして居ても立ってもいられないというような様子だ。 「なあ、マリっぺ。連絡あった?大丈夫かな。駅から迷わずに来れるかな……」  さっきから椅子から立ったり座ったりを繰り返しながら、マリーちゃんに同じような質問を繰り返している。 「大丈夫だって。実花ちゃんだって子供じゃないんだから。地図も写真も送って、駅からの行き方はわかったって言ってたから。それに、何かあったら連絡もらえるように言ってあるし」  そうなのだ。シゲさんこと故、風間 繁之さんの長女である実花ちゃんが、今日のライブにやって来ることになったのである。  マリーちゃんの携帯が、メッセージの着信を告げる音を発する。 「実花ちゃん、藤沢駅に着いたって。今こっちに向かってる」  一瞬、セージはホッとするような表情を見せたが、すぐにまた緊張が(みなぎ)ったような顔になる。 「実花ちゃんが開演前…… っつーか、俺達の出番まで。ハコの中で変な輩に絡まれないように。マリっぺ、店番頼むな」  過保護のようなセージの発言だが、そこはマリーちゃんもそう思っているのか。何度も頷きながら「わかってる」と言っている。  やがて入口のカウンターに立っているはずの店員が控室に現れ、俺達に「風間さんという女性がいらっしゃいましたよ」と告げて戻って行った。  俺とマリーちゃん。と、なぜかセージも。地下2階にある控室から急な階段を昇り、バーカウンターや客席のあるフロアーに立つ。
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