Case 6-2:彼女の島 English Ver.

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「あ!店長、マリーさん!」  俺達を見つけて声をかけて来たのは実花ちゃんの隣に立つ、ひとまわり小さな女性。『本町ストア二号店』の店員である一口 晶子だ。 「あれ?いも子ちゃん、どうして?」 「さっき藤沢駅でバッタリ会ったんです」 「ふ~ん…… その制服は、なんの冗談?」  いも子ちゃんは白いブラウスに赤いネクタイ。その上には黄土色のブレザーを羽織っている。  下は紺色の短いスカート、その下は黒いストッキングだ。頭にはピンクの髪留めをいくつも付けていて、まるでどこかの高校生のようだ。 「せっかく藤沢に来るんですもの。このへんに所縁(ゆかり)の格好をしてきたの。ホラ…… 実花ちゃん」  どうやら何かのアニメのコスプレのようだ。そんな高校生姿のいも子ちゃんに促されて、実花ちゃんが手に持っている大きなコンビニ袋を胸の高さまで上げようとしているので。  ここはセージの出番だろうと思って…… 気が付けばマリーちゃんもそうしているので、場所を譲って真ん中にセージを立たせる。 「あの…… 今日はよろしくお願いします。何か差入れをと思って晶子さんに相談したら。父はよくお水を持って来ていたと教えてくれたので」  駅とここの間にあるコンビニで買ってきたのだろう。持っているミネラルウォーターのペットボトルが5本入ったビニール袋をセージに差し出す実花ちゃん。 「ありがとうございます!」  実花ちゃんに向けて深々と頭を下げてから、水の入ったビニール袋を受け取るセージ。そして続ける。 「お父様のお通夜で一度お会いしましたけど、改めまして。『ひまわり』ボーカルの田部井 誠治です。  そう言えばシゲさん…… お父様もよく、水を買ってきてくれてたな。『いくらあってもいいだろ』って。まさにそのとおり。ライブには必需品だから。  でも…… そんなに気を遣わなくてもいいのに。  こーゆーハコは初めて?話し相手にと思って、マリっぺに物販コーナーの店番をお願いしようと思っていたんだけど……  いも子がいるんだったら、その必要はない?」 「あらあ、そんなことないわよ。晶子ちゃんともお話したいし」 「そっか…… 助かる」  女の子達だけでしかできない話もあるだろうし。ここはマリーちゃんといも子ちゃんに任せて、俺とセージは控室へと戻る。
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