Case 6-2:彼女の島 English Ver.

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 実花ちゃんのナビゲートで、田部井号は丘の上の風間家に到着する。  俺は酒の席で、前に実花ちゃんから聞いた母親── シゲさんの奥さんの話をセージとリュウにしてしまっていたので。  2人はどうも、奥さんには会いたくないみたいだ。俺もそう思う。  まだしばらく、いずれ実花ちゃんのものになるこの家には実花ちゃんの母親と妹も同居している。  こんなに夜更かしをさせた張本人が── こんなにガラの悪い連中が挨拶に訪れたら、どんなに無関心でひどい母親でも怒り出すに違いない。  実花ちゃんもそのへんは理解しているようで。バンドの人達に家の前まで送ってもらって。  今日はもう遅いから挨拶しないで帰ってもらった、と母には告げる。と言ってくれる。  なんてできた()なのかしら。  空席になった助手席にセージが乗り換え、少し余裕ができた車内から窓を開けて実花ちゃんに手を振る。  マスクを外して手を振り返してくれる実花ちゃんの笑顔に、シゲさんの面影が重なる。  そして田部井号は夜更けの住宅街へとエンジン音を轟かす。 「任務完了だな。中央で飲むだろ?」  窓を閉めながら、助手席のセージが俺達を振り向きながら言う。 「あ、だったら体軽くしたいから、ウチの近く── 『はまゆう公園』の下あたりで降ろしてくれない?」  俺が申し出ると、セージの奥さんは承諾してくれる。  指定した場所で田部井号から降り、後ろからギターケースとアタッシュを取り出した俺にセージが言う。 「入る店が決まったら、連絡するな」  シゲさんの通夜の後、奥さんに呼び止められた時と同じ科白(せりふ)。  そう言えばあの瞬間から、このシゲさんの華麗なるが始まったんだよな。  俺は手を振り、セージ達の乗った車のテールライトを見送る。 【章題解説】https://estar.jp/novels/26061459/viewer?page=2
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