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interlude
普段は地元である横須賀や神奈川県内で活動しているロックバンド『ひまわり』であるが、珍しく遠征の仕事が舞い込んだ。
横浜市内のライブハウスで開催されたタイバンライブで一緒になった関西のバンドと仲良くなったことがきっかけで、彼ら主催のステージに呼ばれたのである。
場所は大阪。
いわゆる『キタ』と呼ばれる大阪駅から程近い、新地の繁華街の片隅に位置しているライブハウス。
地元大阪で人気を博しているバンドの前座的な扱いではあったものの、それなりの手応えもありライブは大成功。
終演後、『ひまわり』の面々はライブハウスに近いホテルのロビーに再び集結しつつある。主催であるバンドの連中との打上げに向かうためだ。
持参した楽器などを置くために一度各自の部屋に向かい、身軽になった状態で繁華街へ繰り出そうという算段。
ロビーのソファーには既にドラムスの酒井 亮、ギターの神入 光、ベースの林田 龍一。
それに光が『ひまわり』に加入する前にギターを担当していた新村 剛がロビーに降りて来て、テーブルを囲んで談笑している。
やがてエレベーターが開き、ボーカルでリーダーである田部井 誠治が現れる。
「お、集まってるな。んじゃ、行きますか」
『ひまわり』の連中が集まっているテーブルまで来た誠治が顎をホテルの出入口である自動ドアのほうへ向けて言う。
それが合図であったかのように談笑をやめた面々が立ち上がる。
お、おい。ちょっと待ってくれよ……
ギターの光だけは立ち上がろうとせず、柔らかそうなソファーに座ったままおどおどしている。
そこに再びエレベーターが開く。
「あー!セージさん。また私を置いて先に行こうとしたでしょ!」
現れたキーボードの今沢 真理恵は大声をあげて誠治に詰め寄る。その様子を見て光は胸を撫で下ろし、膝に手を置きながらゆっくりと立ち上がる。
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