interlude

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「ヒカリさん、私が現れなかったらセージさん達とヘンなお店に行ってたでしょう」  置いて行かれそうになった真理恵の怒りは、まだ収まっていないようである。 「だから…… 俺は明日早いんだって。マリーちゃんがいなくても先に帰って寝るって」 「本当?信じられない」 「っつーか、遅くなったのが悪いんじゃないの?」 「女の子はいろいろあるのよ。いろいろ」 「おい!夫婦喧嘩だったら他所(よそ)でやってくれ。犬も食わねぇ」  先を歩いていた誠治が振り返って言う。 「五月蠅(うるさ)い!夫婦じゃないし!」  そんな誠治に駆け寄った真理恵が誠治の胸のあたりに何発も拳を入れる。 「いってーなー!だからマリっぺを連れて来たくなかったんだよ」 「なんですって!もー、辞めてやる!『ひまわり』なんか!」  これはこれで、『ひまわり』のいつもの和やかな風景なのである。真理恵が本気でないことはわかっているし、真理恵を一番必要としているのが誠治だと誰もが知っている。  『ひまわり』はそのルーツから数えて、もう20年も活動を続けているロックバンド。ちょっとやそっとのイザコザで分解してしまうような絆ではないはずだ。  と、彼らと知り合ってわずか数年の光でさえそう思う。  年号が平成から令和へと変わったばかりの5月。神入 光は『ひまわり』の前に突如として現れた。  幼馴染である誠治と龍一、大学時代からの付き合いである亮や剛と比べると、共有している時間はまだ短いかもしれない。  だが着実に光は『ひまわり』に。そして横須賀の街に溶け込んでいる。  光が令和への改元とともに横須賀に現れたのも。『ひまわり』のギタリストに抜擢されたのも。『本町ストア二号店』の店長を務めているのも。  すべて偶然ではなく、何かの運命に導かれて辿り着いた必然のように光は感じている。
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