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Case 7-1:Please Please Me
早朝のバスターミナルに神入 光が現れる。
所属するバンド『ひまわり』の連中と一緒に大阪入りした時はギターケースとアタッシュケースも持っていたが。
そのふたつは、もう一度この大阪に戻って来るまで。昨晩泊まったビジネスホテルが預かってくれるとのこと。
今は最低必需品だけを詰めたデイバッグを背負っているだけだ。
やがて夢遊病のような千鳥足で、意識朦朧の新村 剛が光のもとに現れる。
「おはよう、ヒカリ」
「おはよう。ちゃんと寝れたか?」
高松行きのバスに並ぶ列に割り込むように入って来た剛が首を横に振る。
「いや、ほとんど寝てない。こっちの連中とセージ達に、早朝まで連れ回された」
「だから程々にしとけ、って言ったのに……」
地元の主催バンドに、終演後の打上げにも招待された『ひまわり』であるが。
今日の予定のことを考えて、光は最初の店だけ参加してホテルへと帰ったのだ。きっとその後の男の世界を嫌ったのであろう、真理恵とともに。
「やっぱ大阪で1、2を争う繁華街。ハンパねーゼ」
「良かったな。もうすぐバスが入って来る時刻だから。高松までゆっくり眠るんだな」
目を瞑って頷いてから。剛は不思議そうな視線を光に向ける。
「ん?ヒカリはどうするんだ?」
「通販サイトのチェックと、昨日までの店の状況を店員とチャット」
「真面目だな、相変わらず……」
眠たげな剛が向けた視線の先に、2人が乗り込むのであろう高松行きと思われるバスが滑り込んで来るのが見える。
乗り込んだ車内は、普通の観光バスのような2×2のシートが並ぶタイプ。旅行会社の手配による『ツアーバス』扱いの便であるため、事前予約は必要なものの座席は全て自由。
それほど並んでいる乗客もいなかったためか。光と剛は同じ列のそれぞれの窓際を陣取る。
剛は早速カーテンを閉めて腕を組んで目を瞑り、光はデイバッグから小さなノートパソコンを取り出して、何かの作業を始める。
出発してしまえば、終点である高松駅のバスターミナルまで3時間半ほどの旅である。
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