Case 6-1:彼女の島

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♪  先日亡くなったシゲさんこと風間 繁之さんの遺品を積んだ店のワゴン車を二号店の前に横付けする。  店の前にワゴン車が停まったことに気付いたバイト店員の一口(いもあらい) 晶子(あきこ)が出てきて、荷降ろしの手伝いを申し出てくれた。  CDは百枚箱(ひゃくまいばこ)と呼ばれる、CDケースが100枚入る横長の段ボールに。  雑誌や小説、漫画本などはLPレコードやその他の媒体を収めるための大きな箱に詰めたので、違いは一目瞭然。  比較的軽い、CDが入った百枚箱を店のカウンターへ運ぶことをいも子ちゃんにお願いして。  俺は店の物置に仕舞っておくことにした、その他の物を収めた大きくて重い段ボールを運ぶ。 「けっこう多いんですね、風間さんのコレクション」  物置から戻ると、いも子ちゃんがCDを段ボールから出す作業をしてくれている。  CDが入る百枚箱は全部で8つ。と言うことはシゲさんのコレクションの数が700から800枚の間を意味している。まあ、普通の会社員にしては多い数か。  そのジャンルは多彩。クラシックからジャズに始まり、往年の洋楽ロックから最近のヒップホップ、70年代のシティポップからJポップまで。  書架には作曲家、ミュージシャン順に、しかも発表順に綺麗に並べてあった。所有者の几帳面さが伺えると言うものだ。  俺もいも子ちゃんに並んで、百枚箱からCDをカウンターに出す作業を始める。  『ひまわり』のライブによく来てくれるいも子ちゃんは、当然シゲさんとも面識がある。  セージからシゲさんの訃報を電話で聞き、通夜に参列して来ると告げた時、俺より驚いていたもの。  そんなシゲさんのに触れているのだ。彼女も不思議で複雑な心境なのだろう。 「あれ?」  Jポップの、ある女性シンガーのCDを箱から出すうちに。途中からそのジャケットに必ず黒いマジックでのサインが見られるようになった。  可愛らしい丸い文字のアルファベットは、間違いなくそのシンガーの名前。  そしてその下には西暦からの日付。さらにジャケットの上部には必ず同じ宛名が書かれている。 『みかちゃんへ』  と。
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