Case 7-1:Please Please Me

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「期間はどっちとも18~20年くらいだったと思うよ。地元の医者に、そのくらいの周期でを入れ替えるアドバイスを受けた後だったから」  江戸時代まではある一定の周期で。明治になってからは18~20年周期で土地から土地への移住を続けている剛。  近い場所に2度も住んだと言うことは、何かこの土地に思い入れでもあるのだろうか。  それとも故郷である吉備から瀬戸内の海を渡っただけという、地理的な理由だけだろうか。  二度目の、高松での滞在時にギターを始めたと言っていたけど……  光は考えていた。男が楽器を── 特にギターを始めるには大きくふたつの理由がある。  ひとつは感銘を受けた演奏家(ミュージシャン)がいて、その人に少しでも近付きたいという憧れから。ただし経験上、これは始めた後に詳しくなるにつれて思うようになるケースが多い。  ふたつめはから。不純ではあるが、大抵のギタリストはこの理由で初めてギターを手にしているはずだ。  自分もそうであったように。  讃岐の地を訪れて、そこでギターを始めた──  それは偶然の一致であろうか。 「ゴーってさ。最後に恋したのって、いつ?」 「は?やめろよそんな。女子高生のコイバナぢゃあるまいし……」  突然の光の質問に、剛は動揺する。 「ゴメン…… でもゴーだって一応、男だし。女の子を好きになったり、そのお…… がいたりするわけだろう?」  剛が自分の過去を『ひまわり』の連中に打ち明けたのは、たった数年前のこと。それまでは全てのことを自分の胸だけに秘めて生きて来た。  その『ひまわり』の連中でさえ知らないことの多い、謎多き男なのである。この新村 剛は。  そう言えば、客が欲しがっているレコードを探し当てたり。レコードが引き裂いてしまった過去の友情を取り戻したり、父親の遺品の謎を解いたり……  ヒカリって、ぼーっとしているようで意外と勘のいい奴だったんだっけ。  再び香川を訪れるのに選んだ相手が神入 光であったことを、少しだけ後悔し始めている剛なのである。
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