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ごめんください…… と、開け放たれた玄関に向かうと。その先は土間になっており、昔ながらの農家の造りなのだと改めて実感する。
やがて現れた同世代くらいの女性に、光は自分の名前と訪れた理由。それとメモに記された大西 雅朗という名前を告げる。
「ああ、もうそんな時間…… 待って。主人は畑に出ているので連れ戻しますね」
どうやら彼女はお目当ての人物の妻であるようだ。その場でエプロンのポケットからスマートフォンを取り出し、クルリと背中を向けてそれを耳にやる。
「すぐ戻ってきますから。遠路遥々、お疲れでしょう。今お茶を淹れますね」
たった二、三言を話しただけで手にしていたスマートフォンをポケットに仕舞ってから。光達を先導するように土間の奥へと歩き出す。
通されたのは土間に置かれたダイニングテーブル。光は二号店でもそうしているから慣れているが。剛は靴を履いたままダイニングに向かうことに違和感を覚えているようだ。
この家は屋根こそ青く錆びた青銅製のトタンでできているものの。造りはまるで茅葺き屋根でできているような母屋。
外と接している窓こそサッシのものに付け替えてあるが、土間と各部屋を隔てている扉は障子の引戸のみである。
そんな、天井も高くどこか落ち着かない土間のダイニングでお茶を啜っているうちに。外で車の音がしたかと思うと、農作業用のツナギを着たひとりの男性がやって来る。
「やあ、神入さん。すみません、こんな田舎まで遥々。お電話いただけたら駅までお迎えにあがるつもりでしたのに」
その声に光と剛は立ち上がる。
「いえいえ、こちらこそ。お宿をお世話になるうえにそこまでしていただいては申し訳ございません。
改めまして、いつもご利用ありがとうございます。『本町ストア二号店』の神入です。
こちらは友人の新村…… 以前、香川に住んでいたことがあるので、道案内も兼ねて同席させていただきました」
剛も、お世話になります。と言いながらお辞儀をする。
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