Case 6-1:彼女の島

8/33
前へ
/107ページ
次へ
「誰だろう?この『みかちゃん』って」  リリース順に並べられたCD。その途中の1枚を境に、それ以降の全てにサインが記されている。  でもその日付はまちまちだ。決してリリース順なわけではないし、ふたつとして同じ日付はない。  誰かから譲り受けたCDなのだろうか。 「お?」  1枚ずつ見ていくうちに、妙なCDにブチ当たった。  黒いマジックで書かれたサインと日付は、同じような場所に書かれているのだが。宛名にはこう書かれている。 『繁之さんへ』  と。  それに、このジャケット……  見覚えがある。あるどころか、ついさっき見たばかりのような気がする。  青みがかったモノクロ風の写真。細い木に凭れるように、被った麦藁帽子に手をやった笑顔の女性がこちらを向いている──  そうだ。この女性シンガーのCDの中に、同じジャケットのものがあったかも知れない。  箱から出して並べていたCDを見返す。その女性シンガーが始まる1枚目── つまりは彼女のデビューアルバムを意味しているのか。  そのCDも同じジャケットであり、そして同じように彼女のサインが記されていた。  しかし宛名は他の多くと同じく『みかちゃん』に宛てられたもの。一番下の日付は…… もう一枚の比較的新しいほう、『繁之さん』に宛てられたものと同じだ。  それにジャケットはなのではない。それはまるで新しいほうのCDが、古いほうのCDを再現して撮られた写真のように感じる。  2枚を重ねて背表紙を見てみると、そこには同じタイトルが記されている。  ただし、新しいほうには『English Ver.(イングリッシュ・ヴァージョン)』との記載が。  俺は気になって新しいほうのCDのケースを開けてブックレットを取り出そうとすると。  そこには販売時に付いていたものなのであろう、帯が入れられている。 ── デビュー当時の制作チームが17年ぶりに集結! 「ヴォーカルは渚の快感。つくりは実に正攻法。プロダクションの勝利!」と絶賛された名盤がEnglish Ver.で今蘇る デビューアルバムを、全編英語ヴァージョンで新アレンジ&新レコーディング&ジャケットも撮り下ろし!──  帯に書かれた小さな文字を読むうちに、この類似した2枚の作品が存在する理由を理解した。  でもわからないのは、このサインの宛名の違いと同じ日付……
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加