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Case 6-1:彼女の島
その報せは突然だった。
我らがロックバンド『ひまわり』のリーダー兼ボーカル、田部井 誠治の古くからの知り合いで。
ライブへも頻繁に顔を出してくれていた地元、横須賀在住の大切な友人のひとりである風間 繁之さんの訃報である。
急遽、絶賛自宅警備中であるセージと、横須賀の中心街である大滝町の再開発を待つ街区の一角にある中古レコード店。
その『本町ストア』の二号店で店長をしている俺、神入 光が通夜へと参列することになった。
横浜にある予備校で社会科の弁を揮っている、ベース兼コーラスである林田 龍一も講義が終わり次第、駆け付けるそうだ。
シゲさんの通夜が行われる葬祭ホールは京急の横須賀中央駅からJR衣笠駅方面へ向かう街道沿いにある。
早めに店を出た俺は一旦、不入斗の丘の上にある自宅アパートに戻り。
着替えを済ませてから、反対側の坂道を降りて衣笠駅方面へのバスの往来がある街道へと向かう。
このバス通りは横須賀中央と衣笠を結んでいるだけでなく、衣笠駅から先の西海岸── 横須賀市の相模湾に面したほうの地域を結ぶ路線。
それにマグロの水揚げで有名な三崎方面に向かう便も多く、頻繁にバスが行き来している。
俺の目的地である葬祭ホールは衣笠駅よりも手前なので、どのバスに乗っても行き着けるはずだ。
住宅街の中に位置する停留所にやって来たバスは通学の学生や買い物帰りの奥様達で混雑していたので、俺は運転席に近いほうに立って前の車窓に目をやる。
亡くなった風間 繁之さんはセージの友人らしかったが、俺達『ひまわり』の連中とも仲良くしてもらっていた。
ライブでは毎回のように飲料水や軽食などを差入れてくれたり、終演後の打ち上げにも許す限り顔を出してくれていた。
俺達とそれほど歳も離れていないように見えたシゲさんが亡くなったと聞いて、俺はまだ心のどこかで信じられずにいる。
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