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「エヴェレットの多世界解釈というのはご存知ですか?」
「……」
物理学者ではない柚が知るはずもなかった。
「量子力学を決定論的に理解しようと試みた理論です。非常にざっくり言うと、その名の通り、世界は次々と分岐していくという考え方です。『シュレディンガーの猫』の例えで言うなら、箱の中は『生きている猫』と『死んでいる猫』の世界に分岐していると考えます」
「世界が分岐する……」
話が壮大すぎてついて行けない。
だが秋堵は雄弁だった。
「〝隠れた変数〟によって精密に計算され、落下してくるデブリは世界を分岐させないための、いわば楔(クサビ)です。これによって分岐していくはずだった世界が統合されていく。そうすれば、もう二度と量子力学が蔓延らない、決定論が支配する誰も〝不確かな〟ことで傷つかない理想の世界を作れるのです!」
いつになく熱っぽく語る。
柚は引っ掛かりを覚えて聞いた。
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