4/9
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/385ページ
「エヴェレットの多世界解釈というのはご存知ですか?」 「……」  物理学者ではない柚が知るはずもなかった。 「量子力学を決定論的に理解しようと試みた理論です。非常にざっくり言うと、その名の通り、世界は次々と分岐していくという考え方です。『シュレディンガーの猫』の例えで言うなら、箱の中は『生きている猫』と『死んでいる猫』の世界に分岐していると考えます」 「世界が分岐する……」  話が壮大すぎてついて行けない。  だが秋堵は雄弁だった。 「〝隠れた変数〟によって精密に計算され、落下してくるデブリは世界を分岐させないための、いわば楔(クサビ)です。これによって分岐していくはずだった世界が統合されていく。そうすれば、もう二度と量子力学が蔓延らない、決定論が支配する誰も〝不確かな〟ことで傷つかない理想の世界を作れるのです!」  いつになく熱っぽく語る。  柚は引っ掛かりを覚えて聞いた。
/385ページ

最初のコメントを投稿しよう!