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「誰も傷つかない世界なら。じゃあ、なんでデブリの落下で人が死ぬんですか?」
「決定論を維持するには一定数の〝不確かな〟要素を事前に世界から排除していく必要があるのです」
「その〝排除していく〟対象というのが人間……?!」
「安心してください。僕の計算では、戦争や事件、事故、自然災害などで毎年死ぬ人数よりもはるかに少ない人数が死ぬだけで、みんなが安定した予測可能な世界を享受できます」
「そういう問題じゃありません! 人を殺さなきゃ、維持できない世界なんて私は嫌です!」
「どうしてですか? 非常にコスパのいい、素晴らしい世界じゃないですか」
ああ……。
柚は心の中でため息をついた。
一気に心が冷めていく。
好きだった彼が、まったく遠い世界の住人であることを知った。
柚は哀しそうに秋堵をじっと見つめた。
「……」
「おや、柚さん、どうしたんです?」
柚の心境をまるで察することができない秋堵は首を傾げる。
柚は秋堵の問いには直接答えず、質問で返した。
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