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「……」  柚は言葉を失った。  すべては秋堵の手の内のことだった。おそらく今の口ぶりから秋堵は、爆弾の爆風の向きなどを計算して、爆発の瞬間、柚を庇い、ギリギリ生き残れる方向にかわしたのだろう。  被害者となることで、警察や公安などからの追及を避けることもできる。一石二鳥を狙ったのだ。 「そしてさらに〝隠れた変数〟を持って逃亡する〝馬場力也〟の死を演出することで、某国の工作員も日本から完全撤退しました。これで僕は晴れて自由に研究ができる! 素晴らしい世界です!」 「……」  すぐ目の前で悦に入って語る秋堵に対して、押し黙った柚の気持ちは完全に冷え切っていた。  確かに秋堵の目指す世界は人々を幸せにするかも知れない。だがこんなにも他人の犠牲の上に成り立ってて良いのだろうか?  柚は秋堵を突き飛ばした。  停止したエレベーター内。不意を突かれた秋堵は反対側の壁に背中をぶつける。ドンと大きな音がしてエレベーターが揺れた。 「ゆ、柚さん?!」 「ごめんなさい。私はやっぱりあなたを受け入れられない!」  柚はそういうとエレベーターを飛び出した。
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